文化 島田人 Shimadajin File #163

■憧れの奏者であり続けるために、プライドを持って世界に挑戦し続ける
NHK交響楽団 チューバ奏者
池田幸広(いけだゆきひろ)さん(東京都)

日本を代表するオーケストラ、NHK交響楽団(以下、N響)でただ一人のチューバ奏者としてサウンドを支える、市内出身の池田さん。世界の舞台で活躍する中、市内でも演奏会や演奏指導を行い、地元の後進の成長を温かく見守っています。

▽夢を抱いた学生時代
サッカー少年だった池田さんが音楽の世界に出会ったのは、小学生のときでした。
「島田第四小のブラスバンド『ファンファーレバンドクラブ』の演奏を初めて聴いたとき、その迫力に衝撃を受けました。とにかく何か楽器ができるようになりたいと強く思い、入部してユーフォニアムを担当しました。中学入学後は吹奏楽部でチューバを担当し、恩師との出会いを機にプロ奏者を目指すように。高校2年生で前歯を折るけがをした時は、以前と同じ感覚では楽器を吹けなくなり絶望しました。そんな時両親が連れて行ってくれた、世界的に有名なチューバ奏者の演奏会で、自分はこれがやりたかったのだと再認識。諦めずに努力を重ねて、国立(くにたち)音楽大学に合格することができました。両親には本当に感謝しています」

▽最高峰のチューバ奏者として
大学卒業後、大阪市音楽団で活動していた池田さんは、憧れだったN響のオーディションに挑み、見事合格。約38年ぶりの新任チューバ奏者となりました。
「N響のチューバ奏者の定員は1名。前任者の引退に伴う募集の機会に立ち会えたのは本当に幸運でした。体力や経験値の面でも良いタイミングだったと思います。あれから20年、子どもの頃に憧れた立場に恥じないよう、誇りを持って演奏活動に励んできました。チューバは主役として舞台に立つことこそ少ない楽器ですが、その音色ひとつでオーケストラ全体の印象を変える大きな存在感があります。そこがこの楽器の魅力であり、やりがいを感じるところですね」

▽夢を追いかける若者たちへ
「N響の奏者としての日々は、挑戦と収穫に満ちています。厳しい公演日程の中でも自己研さんを絶やさず、国内や世界の舞台で演奏し、受けた評価を学びとして次の演奏につなげる、その連続です。一方、年を重ねるにつれ、後進の育成や地元への還元に力を入れたいという気持ちも強まっています。市制施行20周年記念の演奏会や金管クリニック(演奏指導)は、そんな私にとってもうれしい機会でした。演奏会では客席の楽しそうな様子が伝わってきて、拍手や声援に地元の愛を感じました。金管クリニックでは、島田の若きチューバ奏者たちのレベルの高さに驚きました。将来がとても楽しみです。
若い人たちに伝えたいのは、『夢を追いかけるときは本気で取り組む』ということ。誰にでもチャンスがあり、未来が広がっています。これと決めたことには真剣に向き合い、挫折に負けずに頑張り抜いてほしいですね」
いろいろな人やことから刺激を受けて今の自分があるという池田さん。今度は自分が次世代に刺激を与えられたらと、挑戦する背中を見せ続けます。