文化 ふるさと再発見 Re:discovery Omihachiman 第84回

■文化財の保存修理(8)
重要文化的景観「近江八幡の水郷」を守る

地域の人々の生活や生業、その地の風土により形成された景観のうち、国民の生活や生業の理解に欠かせないものを文化的景観といいます。本市では、平成18年に「近江八幡の水郷」が重要文化的景観に選定されました。この「近江八幡の水郷」は、琵琶湖の内湖である西の湖や、それとつながる長命寺川などの河川、八幡堀、ヨシ地といった自然の景観に加え、円山や白王山の里山の集落、水田、ヨシ産業など人々の暮らしや生業が息づいているものが一体となって形成されています。
かつて琵琶湖周辺には多くの内湖が広がり、ヨシをはじめとする湿地植物が広がっていました。江戸時代には八幡城下町を中心に活躍した近江商人らは「近江表(おうみおもて)」や「近江上布(じょうふ)」など湿生植物を原料とした商品を扱っており、西の湖北岸の円山集落はその流通を通じてヨシの産地として広く知られるようになりました。現在も集落ではヨシを使った簾(すだれ)や葦簾(よしず)の製造が続いています。ヨシは定期的にメンテナンスをしないと質がすぐに悪化し、景観を保つことができません。製造業者の数は減少していますが、今もヨシ刈りやヨシ焼きなどのメンテナンス作業は従来からの手法を受け継いで行われています。
円山集落では今もヨシ葺(ぶ)き屋根の建物やヨシ作業小屋が残ります。円山町西部の山麓にある清見寺(せいけんじ)は享保(きょうほう)2(1717)年に建立された入母屋造(いりもやづく)りの寺院で、屋根は地元産ヨシを用いた茅(かや)葺きです。周辺からもヨシ葺きの屋根がよく見えていることから、文化的景観の中の景観上重要な構成要素となっています。平成24年にはヨシ葺きと瓦葺き屋根の全面修理が行われましたが、経年劣化や鳥、イタチによるヨシの抜き取りなどの被害が見られることから、今年11月から再び修理が行われています。今回の修理は差しヨシ補修のほか、上屋根部分の杉板や竹といった棟修理も併せて行っています。
このように「近江八幡の水郷」はヨシ地の定期的な管理や修理などを行いながら、美しい景観を後の世代に受け継いでいます。
文(文化振興課・森山)