- 発行日 :
- 自治体名 : 滋賀県近江八幡市
- 広報紙名 : 広報おうみはちまん 2026年2月号
■文化財の保存修理(10)
長命寺参詣曼荼羅(さんけいまんだら)・後編
令和4~6年度に修理を行った長命寺参詣曼荼羅(甲本・乙本・丙本の3鋪)について、前回に引き続き紹介します。
前回は資料の概要と、修理工程より解体とそれに伴う紙継ぎ箇所のズレ修正についてとりあげました。今回は折り目に関する修理やその背景にある文化財修理の考え方を紹介します。
紙製の文化財にとって、折り目は損傷の大きな要因となります。特に、繰り返し折る・広げる行為は負荷が蓄積されていきます。参詣曼荼羅は、寺院の再建に向けて勧進を行っていた僧が畳んで持ち歩き各地で人々に広げた絵を見せながら絵解きをするため、折りによる損傷は必ず生じる痛みであり今回の資料にも見られました。特に縦折りと横折りが重なる十字の折り目は痛みが激しく、折り目に沿って絵具の剥落や亀裂、料紙の欠失がありました。一部では、解体時の調査より、過去の補修跡や現状とは異なる折り目が見られ、これまで皺(しわ)を伸ばし補修するなどの修理を行いながら長い年月にわたり受け継がれてきたことが確認できました。今回の修理では、劣化していた過去の補修紙を除去し、欠損箇所周囲の皺や亀裂を伸ばしたうえで絵具の剥落止めが施されました。
修理後は損傷を軽減するため、折り目のない掛軸装に仕立てる案もありました。しかし折り畳まれていたという本来の形状は、資料の持つ役割や使用方法など、資料の背景にある歴史を表す大切な情報であり、一度は形状を変えないこととなりました。ですが、再検討の結果、後世に受け継ぐため、損傷のリスクを軽減したいという保存の視点から、損傷リスク軽減と歴史的背景を表す形状維持の間を取って、縦折りのみで横折りはせず、特に痛みが生じやすい折り目が十字に重なる箇所を作らない状態で保存することとなりました。
長命寺参詣曼荼羅の修理について一部を紹介しましたが、文化財の修理はそのものの価値や歴史を損なわないようにするため、方法や材料について繰り返し検討を重ね、多くの工程を慎重に行います。また修理を行うことも、その文化財が持つ歴史の一端となるため、記録を残すことが大切です。長い歴史の中で受け継がれてきた文化財は、さらに後世に繋ぐため、多くの人の思い入れを持って修理が施されることを感じていただければ幸いです。
文(文化振興課・永福)
※写真は(株)坂田墨珠堂 提供(写真は本紙をご確認ください)
※資料の所有は長命寺(現在は県立安土城考古博物館に寄託)
