くらし [善聞語録]189

■綾の聖地
大本長正殿に臨んで広がる旧農業研究センター跡地に整備が進む「綾機平(あやはただいら)」でこの度、世界平和祈願「大本歌祭」が開催された。国家や民族、言語、宗派の垣根を越え、心ひとつに世界平和の実現を願う短歌を奉納し朗詠する神事だが、その礎は「万教同根」「人類愛善」にある。そしてこの理念は、本市が全国に先駆けて唱えた世界連邦の思想や、市民憲章の第一項で「平和をねがい、祈りのあるまちにしよう」と謳(うた)った精神にも重なる。
綾部の地において大本が開教したのが明治25年、郡是製糸(現グンゼ株式会社)の創業が同29年、そして60年後の昭和25年に世界連邦都市宣言をしている。個別の成立ではあるものの、宗教史・文化人類学者の中沢新一氏は「全てが地下茎の如く、綾部の地で繋(つな)がっている」と評し、また民族・比較文明学者の梅棹忠夫氏は「丹波の山奥の小田園都市が突如として世界的運動に突進していくのは驚くに足る」と記している。
本市は2000(平成12)年にエルサレム市と友好宣言を行い、以後「中東和平プロジェクト」と銘打ってイスラエルとパレスチナ双方の紛争孤児らを計13回にわたって日本に招く事業を展開してきた。近時は現地情勢の悪化により中断を余儀なくされているものの、エルサレムは語源的に「平和の礎」と解釈され、聖なる地として大本ではこの綾部を並べ置く。歌祭の催された綾機平には間もなく「綾機神社」が造営されると伺っているが、世界平和・世界連邦を象徴する場となることを祈念している。
夜の静寂(しじま)が御神体の本宮山と神殿を包み込み、かがり火が焚(た)かれ幽玄な雰囲気を醸(かも)す中、儀式も佳境に入り、全国から寄せられた歌が朗々と詠まれていった。中には万国共通語エスペラントで詠まれた歌も数多くある。僭越(せんえつ)ながら拙首も特別献詠歌として披露された。
世界へと届け想いを綾部から
平和の歌は風となりゆく
山崎善也(綾部市長)