文化 〔特集〕亀岡が生んだ江戸時代の思想家 石田梅岩を知る
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- 発行日 :
- 自治体名 : 京都府亀岡市
- 広報紙名 : 広報かめおか 令和7年8月号(第049号)
■亀岡が生んだ江戸時代の思想家 石田梅岩を知る 今年は生誕340年
9月、生誕地に記念館オープン。その生涯と現代に続く教えを知る
◇8月・9月号で、石田梅岩(いしだばいがん)を紹介
江戸時代に「心学」を説いた石田梅岩。彼が生まれたのは、ここ亀岡の地です。
亀岡を代表する偉人を顕彰するため、東別院町の石田梅岩の生誕地に石田梅岩記念館がオープンします。8月号では石田梅岩とはどういった人だったのかをお伝えします。
◇石田梅岩の生きた時代
徳川吉宗による享保の改革が進められた江戸時代中期。新田開発により経済が発達し、「士農工商」と言われるように、政治を担う「武士」と、農業を営み経済を支える「農民」が重視されました。商人や町人は、都市部において経済を担っていたものの、その社会的基盤は不安定でした。
そのような中、農村に生まれ、町人として育った石田梅岩は、農民だけでなく、町人や商人にも通じる倫理観を示し、当時の町人や商人らから大きな支持を得ることとなりました。
◇石田梅岩とは?
石田梅岩は、1685(貞享2)年、別院荘東懸村(現在の東別院町東掛)で、農家の次男として生まれました。呼び名は勘平でした。当時の農村では、長男が家を継ぎ、次男三男は京都などへ奉公に出されることが多く、勘平も10代で京都の商家へ奉公に出ます。
◇庶民に寄り添う「哲学」
石門心学は、一部の知識人のための難しい学問ではありません。誰もが心の中に持つ「本来の善性」に気づき、それを日常生活の中で磨いていくための、実践的な「心の学び」です。
梅岩は、対話形式の講座を無料で公開し、聴衆からのどんな素朴な質問にも、身近なたとえ話を用いて丁寧に答えました。
その教えの根幹は、「正直」「勤勉」「倹約」という三つの徳の実践です。「人の本当の価値は、生まれや財産、学歴ではなく、その心根の誠実さにある」と説く彼の言葉は、身分制度の厳しかった時代において画期的なものであり、多くの庶民の心を捉え、その輪は全国へと広がっていきました。
◇石田梅岩の思想
梅岩は、二度も京都の商家へ奉公に出ますが、仕事に励む傍ら、儒学や仏教、神道といったさまざまな学問を独学で探求し、「人間の本質とは何か」という問いを生涯にわたって突き詰めました。
長い思索の末、45歳でついに京都・車屋町に自身の講席を開きます。これが、日本独自の思想「心学」の始まりでした。梅岩の説く思想は、人の「性」、「心」のあり方まで深く見つめるものでした。梅岩は、次のように言ったと伝わります。
「たとえ親孝行をするとしても、外聞・名声のためではなく、仁義の心からなすものが孝行である。また、学問を修めるといえど、自らの「性」や「心」と向き合うことなしには学問を修めたことにはならない」
人の行いにおいて、「性」「心」と向き合うことの重要性を説く梅岩の思想は、その弟子達によって「心学」と呼ばれ、江戸時代後期には江戸で大流行していきます。
◇「心学」の流行
寛政年間、山東京伝は、黄表紙『心学早染草』を記し、心学の説く人の心に宿る「善玉」「悪玉」を取り上げ、ユーモアを交えて紹介しました。この「善玉」「悪玉」は、その後歌舞伎座でもおどりが上演され、江戸で大流行しました。
この流行に目を付けた葛飾北斎は、「悪玉踊り」の振り付けを解説した『踊獨稽古』を著し、この漫画も人気を博しました。
この踊りは、人の心の中に常に存在する善の心(善玉)と悪の心(悪玉)の葛藤を、踊りによって表現したもので、心学の教えを誰もが直感的に理解できるよう工夫されており、5月に開催した「かめおかダンスフェスティバル2025」では、現代版にアレンジされた踊りが公開されました。
◇現代に生きる梅岩の教え
梅岩の教えは、約300年の時を超え、現代社会が直面する課題を解く鍵を秘めています。例えば、梅岩は「商人の営利は、社会を豊かにするための正当な対価であり、その働きは武士のそれと等しく尊い」と説きました。
これは、利益追求のみならず、社会貢献や倫理観を重視する現代の企業経営、すなわち企業の社会的責任(CSR)やSDGsの理念と深く共鳴します。
公正な取引を通じて社会に価値を提供し、その結果として利益を得るという考え方は、まさに持続可能な経済活動の理想形と言えるでしょう。
また、「倹約」の教えも、単なる節約ではありません。それは「物を大切に使い、無駄をなくし、本当に必要なことにお金や資源を活かす」という思想です。これは、大量生産・大量消費社会を見直し、地球環境の保全を目指す現代のサステナビリティの考え方そのものです。
■人の本当の価値は、生まれや財産、学歴ではなく、その心根の誠実さにある
◇正直
誠実さを基本とし、言行一致の生き方を重んじる
◇勤勉
真摯に努力し続ける姿勢と働くことの価値
◇倹約
物を大切にし、必要なものに資源を活かす知恵
■石田梅岩記念館が9月オープン
記念館の開館を機に、石田梅岩の普遍的なメッセージに、あなたも触れてみませんか?
広報かめおかの9月号でも掲載を予定しています。
館内では、貴重な資料とともに、梅岩の生涯や思想を分かりやすく紹介。子どもから大人まで、誰もが楽しみながら梅岩の世界に触れることができます。