- 発行日 :
- 自治体名 : 兵庫県佐用町
- 広報紙名 : 広報さよう 令和7年5月号
◆素麺から紡ぐ″地元で働く〟土台作り
朝の光が差し込む工場に一歩足を踏み入れると、ほんのりと小麦の香りが鼻をくすぐる。風にそよぐ白い布のように揺れる素麺をていねいに捌く畑瀬有宏(くにひろ)さん。父が営む「(有)畑瀬製麺所」の工場を取り仕切るようになってから4年が経ちました。
大学では経営学を学びながらも、家業を継ぐことは考えていなかったため、早々に東京の不動産ベンチャー企業に内定をもらっていた畑瀬さん。しかし、当時担い手不足になっていた製麺所を手伝ったことが転機となります。これまではあまり興味を持てなかった素麺づくりも、いざ作ってみると、毎日製品ができる達成感に包まれる自分に気づきました。
卒業後は、親の勧めで一度は就職し、東京で働いてはみましたが、あの時の充実感を忘れられず、その年の繁忙期には帰郷しました。
10月から5月の寒い時期に限られる素麺づくりは、深夜2時Vol.8ごろから午後4時まで働く立ち仕事。忙しい時期は休みもまともに取れない過酷な仕事です。「本当に大変ですよ」と、話す畑瀬さんですが、夜中に起きる生活リズムにも慣れ、生産量をどんどん増やしているようです。品質面でも、温度や湿度によって出来具合が変わる繊細な素麺の扱いに、「失敗はほとんどない」と自信をのぞかせます。
また、製麺所のオフシーズンは、地元の土木事業者で働き、地域の人たちや友人との″人のつながり″を大切にしている畑瀬さん。そこには、人口が減少している町には「若い力が必要」という思いがあるようです。「これからは、若者が佐用町に戻って来れるための礎を作ろう」と、同じ思いを持った地元の同級生数人と話し、自分たちの力でもっと佐用を面白い町にしようと模索しています。
伝統をつなぎながら、今を生きる-畑瀬さんの歩みが、町に新しい物語を刻んでいます。