健康 市民医学講座 NO.247

◆最近の乳がん事情
今治市医師会 戸田 茂

乳がんの診療は時代とともに大きく変化してきました。過去の“がんだから手術で治す”時代から、現在では“薬物治療が大きな役割”を占めています。これは医学の進歩に伴う新しい薬剤の開発・登場があったからです。
乳がんは雑多な集団の総称で乳がんの性格(サブタイプ)によって使用する薬剤を選択します。いろいろな性格の乳がんがあり、大きく分類するとルミナールタイプ、ハーツータイプ、トリプルネガティブタイプに分かれます。がんの遺伝子異常による分類が行われ効果の期待できる薬剤を選択します。
乳がんの大勢を占めるルミナールタイプはおとなしい性格で緩徐(かんじょ)に発育する悪性度の低いタイプです。検診発見乳がんのほとんどがこのタイプです。おとなしいタイプには抗がん剤の効果は弱く、ホルモン療法が非常に有効であるため、まず手術治療を行い術後にホルモン療法を施行することが一般的です。
ハーツータイプでは最近の分子標的薬剤がとても有効であり、かなり進行した状態でもがん組織の消失が期待できます。術前に薬物療法を施行し治療の反応性を確認してから手術治療を行います。
悪性度の強いトリプルネガティブタイプでは、これまでは抗がん剤治療の選択しかありませんでしたが、最近では術前薬物治療として抗がん剤と免疫療法(リンパ球ががん組織を攻撃する)を組み合わせることで、とても成績の良い治療法が可能となりました。
薬物治療の進歩は著しく、過去に行われた盲目的な治療法から無駄のない・有効性の高い治療法に変化しています。手術主体であった乳がん治療から最近の新薬を駆使した手術前の薬物治療となり手術治療と放射線治療を組み合わせた集学的治療で治療成績が向上しています。再発させない治療法の取り組みはまだまだ発展途上ですが研究が進んでいます。
早期発見・早期治療がとても重要であることは昔から共通した事実です。早期に小さく見つかれば、これまでお話した薬物治療は不要です。乳房温存手術により乳房を失うこと無く、根治が可能です。ステージ0(ゼロ)しこりを触れない乳がんが20%以上を占める時代となりました。
ぜひご自分のため、ご家族のため、愛するひとのために乳がん検診を受けましょう。
※このコーナーの記事は今治市医師会広報委員会のご協力によるものです。