文化 (特集)実は大洲にあった!喜多川歌麿の“本物”の版木
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- 発行日 :
- 自治体名 : 愛媛県大洲市
- 広報紙名 : 広報おおず 2026年2月号
■大洲市に残る、歌麿の貴重な版木
昨年放送されたNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~」で話題の喜多川歌麿(きたがわうたまろ)。その歌麿の“本物の版木”が、大洲市にあることを知っていますか?歌麿の版木は、世界でもわずか4枚しか見つかっていません。そのうち2枚が大洲市で発見され、現在も文化財として大切に守られています。
■喜多川歌麿とは?―美人画で世界を魅了した浮世絵師―
喜多川歌麿(1753?~1806)は、江戸時代後期を代表する浮世絵師です。版元(はんもと)・蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)に才能を見出され、女性の顔や上半身を大きく描く「大首絵(おおくびえ)」という革新的な表現を生み出しました。町娘や遊女など、当時を生きる江戸の女性たちの内面まで感じさせる繊細な描写は、江戸の人々を魅了し、一大ブームを巻き起こしました。
黄表紙(きびょうし)(※)の挿絵から錦絵まで幅広く手がけ、寛政の改革による表現規制のなかでも新しい表現を追求し続けましたが、文化元年に風紀取締りの処分を受け、2年後に没しました。葛飾北斎(かつしかほくさい)・歌川広重(うたがわひろしげ)・東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)と並ぶ浮世絵黄金期の名匠とされています。
※しゃれや風刺を効かせた、挿絵入りの物語書籍のこと。表紙が黄色だったことから、この名で呼ばれていた。
発見された版木は、「狐釣之図」(きつねつりのず)と呼ばれる9人の女性がお座敷遊びを楽しむ様子を描いたもので、制作年代は寛政8~9年(1796~1797年)ごろと考えられています。この作品は3枚続きの版木で構成されていて、肱川町で発見されたのは左右両端の図柄の版木です。
「当時三美人」
当時人気を集めていた「難波屋おきた」「高島おひさ」「富本豊雛(とみもととよひな)」という、実在した3人の女性を描いた歌麿の代表作です。この3人は、寛政年間に特に評判の高かった女性として、「寛政の三美人」と呼ばれています。
■肱川で見つかった、奇跡の版木
世界的にも貴重な文化財が、今もこのまちで大切に受け継がれています。思いを巡らせると、この2枚の版木が、制作された江戸を離れ、どのような経緯で肱川町へたどり着いたのか――その道のりには、今なお多くの謎が残されています。
浮世絵木版画「狐釣之図」は、本来3枚続きで構成された作品ですが、肱川町で発見されたのは左右の2枚のみです。世界に現存する歌麿の版木は、大洲市に残されている2枚を含めて、わずか4枚と言われています。
一方、中央部分の版木はいまだ見つかっていません。江戸時代の版木は、用途を変えて再利用されることも多く、姿を変えて今もどこかに眠っている可能性もあります。そう考えると、思いを巡らせずにはいられず、歴史のロマンを感じさせてくれます。
■歌麿の版木、ここがすごい―歌麿館職員が語る、世界に誇る文化財―
歌麿館最大の見どころは、世界に4枚しか現存していない喜多川歌麿の版木のうち2枚を実際に鑑賞できる点です。浮世絵制作に使われた版木が現存する例は非常に珍しく、世界的にも極めて貴重な展示といえます。
浮世絵の制作は、出版社兼プロデューサーである「版元」が企画し、絵師(えし)・彫師(ほりし)・摺師(すりし)の三者による分業体制で行われました。まず、版元の依頼を受けた絵師が下絵を描き、版元の承認後、幕府の検閲(改印の取得)を経て、許可が下りた下絵のみが出版されます。続いて彫師が下絵に従って版木を彫り進めます。版木には、髪の毛などの繊細な表現が可能で、数千回の摺りにも耐える、硬く粘り強い山桜(やまざくら)の木が用いられました。彫りが終わると摺師のもとで絵師と摺師が立ち会って見本摺りが行われ、色抜けや彫り忘れがないかを確認し、本摺りへと進みます。本摺りは200枚を「一杯(いっぱい)」として数え、これを初版とします。初版が完売し人気が出ると後摺り・増し摺りが行われました。
やがて摩耗した版木は、表面を平らに削り直して再利用され、さらに裏面が使われることで次第に薄くなり、最終的には使用できなくなります。こうした理由から、版木はほとんど残ることがなく、現存する版木自体が貴重な資料になるというわけです。
数千人から万人いたとされる浮世絵師。その中でも特に名高い喜多川歌麿の版木は、約230年の時を経て、絵師・彫師・摺師の情熱を今に伝えています。
(肱川風の博物館・歌麿館 河野信介(しんすけ))さん
■本物に出会える場所 肱川風の博物館・歌麿館
◇風の博物館
肱川町にあるミュージアム。「心に風を」をキャッチフレーズに始まった「肱川風おこし運動」の拠点で、風に関する図書などの展示や地域コミュニティづくりと都市住民との交流によって活力あるまちづくりを図るための施設。現在は、地元にゆかりのある美術作品をはじめ、さまざまなジャンルの展示を行っている。
◇歌麿館
歌麿館には、浮世絵が発展していく過程や歴史をパネルで紹介。また、歌麿をプロデュースした蔦屋重三郎の店『蔦屋耕書堂(つたやこうしょどう)』を復元し、浮世絵の販売されていた様子を再現。「狐釣之図」の復元を例に浮世絵の制作の工程について紹介している。また、彫りや摺りに使用する道具も展示。
◇基本情報
大洲市肱川町予子林99番地1
【電話】0893-34-2181
営業時間:9:00~17:00
定休日:火曜日、年末年始
※火曜が祝日の場合、翌日休館

