- 発行日 :
- 自治体名 : 愛媛県久万高原町
- 広報紙名 : 広報久万高原 2025年11月号
■菅亮平 The Long Wait (3)
油分を多く含む松は、松明や着火剤など、光や熱をもたらす道具として人々の暮らしを支えてきました。その延長にあたるのが、松の根から抽出される「松根油(しょうこんゆ)」です。第二次世界大戦末期、石油資源が枯渇するなかで、国家プロジェクト「松根油増産運動」が推進されました。松を伐根して油を抽出し、幹を傷つけて松やにを採取し、航空機燃料の製造をもくろんだのです。
菅亮平は、当時の国策グラフ雑誌などの文献を手がかりに、松根油を抽出する過程を再現した《松根油乾留装置》を制作しました。自然からエネルギーを得ようとする人間の想像力と、その背後にある暴力性について問い直す作品です。
同じ空間には、江戸時代後期に松山藩絵師・遠藤広実によって描かれた《久万山真景絵巻》が展示されています。実景に基づいて久万地方の各地を描いた絵巻には、松の姿が多く描かれています。
この2つの作品を通して、人間が松を燃料として利用してきた行為と、かつて久万の地に広がっていた松林の風景が重なり合います。失われた松の風景を見つめ直しながら、自然と人間の関係について思いを巡らせてください。(本田)
▽学芸員のつぶやき
『松根油乾留装置』は、ヒーターを稼働させることで、実際に松根油の抽出が始まります。同室には抽出した松根油や国策グラフ雑誌も併せて展示しています。
問合せ:久万美術館
【電話】21‒2881【HP】http://www.kumakogen.jp/site/muse/
