文化 No.196博物館だより オオサンショウウオのお話(第三話)

■四国で自然繁殖初確認
平成27(2015)年2月4日、川底にたまった落ち葉を網ですくってみたところ…。
本紙右の写真の生きものが、湿った落ち葉の中でうごめいていました。巣穴から出てきたばかりのオオサンショウウオの幼生です。大きさは全長約5cm、体重は約1gでした。
この日見つかった数は16頭でした。その後、近くにある水中の穴の中を調べた結果、オオサンショウウオの卵塊の残渣(ざんさ)を見つけることができました。これらの情報を得られたことから、「オオサンショウウオは四国で自然繁殖をしている」と判断するに至りました。
今年は2025年。私たちはその後も調査を続けています。これまでの10年間、同じ場所でほぼ毎年幼生を確認することができています。しかし、四国の中でこの場所のほかではオオサンショウウオの繁殖を確認したことはありません。今のところ、この仁淀川支流は、四国唯一の繁殖地となっています。

■遺伝子検査の結果
2019年、ここで見つかった幼生の遺伝子検査が国立科学博物館の研究者によって行われました。その結果、「日本固有種であるオオサンショウウオであることは間違いない」と分析されました。本州では、人が外国から国内に持ち込み野外に放してしまったチュウゴクオオサンショウウオが日本のオオサンショウウオと交雑を始め、遺伝子汚染が進んでいます。近い将来、純粋な日本産のオオサンショウウオは本州からいなくなるかもしれないと心配されています。このようなことから、「まだチュウゴクオオサンショウウオの影響が確認されていない四国のオオサンショウウオは貴重な個体群である」と、いわれています。
一方で、「遺伝子検査をした四国のオオサンショウウオは、京都府周辺で見つかっている個体の遺伝子タイプに極めて近い」とも、発表されました。検査を行った研究者は、「仁淀川支流で繁殖しているオオサンショウウオは、もともとこの川に住んでいたものではなく、だれかが京都のあたりから持ってきて放した可能性が高い」と言っています。

■これからのオオサンショウウオとのつきあい
オオサンショウウオは、一度の産卵数が100~300個と多く、寿命は数十年と長く、成長すると全長1m以上となります。食性は肉食で、水生昆虫、サワガニやテナガエビなどの甲殻類、アユやアマゴなどの魚類、口に入るのであれば両生類、爬虫(はちゅう)類、哺乳類なども食べます。水辺の生態系の頂点に位置し、長生きすることから、ほかの生物に対して影響が大きいです。

■水産資源への影響
仁淀川支流では、仁淀川漁協の皆さんによって、毎年少なくない量のアユとアマゴが放流されています。この川で見つかるオオサンショウウオは、これらの魚を食べていると思われ、水産資源の減少に関係していると考えられます。

■国内移入種の問題
仁淀川支流で見つかるオオサンショウウオは、四国外から人の手によって運ばれてきた国内移入動物である可能性が高まりました。この川本来の生態系に、少なからず影響を及ぼしていると思います。

■特別天然記念物
国内移入種ではありますが、種としては文化財指定を受けているオオサンショウウオなので、文化財保護法によって守られています。文化庁からの許可なく捕獲や飼育はできません。

■日本の固有種
仁淀川支流の本種は、まだチュウゴクオオサンショウウオによる影響を受けていない貴重な集団です。

■遺伝子汚染の心配
チュウゴクオオサンショウウオが四国に持ち込まれる可能性は、0%ではありません。野外に生きる四国のオオサンショウウオにも遺伝子汚染の危機は迫っています。

越知町は、「四国の中で最もオオサンショウウオと近い町」と言っていいと思います。これから、この動物との付き合いは、どうしていけばよいでしょうか?

横倉山自然の森博物館学芸員 谷地森秀二