- 発行日 :
- 自治体名 : 福岡県飯塚市
- 広報紙名 : 広報いいづか 令和7年11月号
●胃がんリスクとピロリ菌検査
飯塚市立病院 薬剤室
薬剤師 瓜生(うりう) 啓人(けいと)
胃がんは、特に日本、韓国、中国といった東アジア圏で罹患率が際立って高い疾患です。では、なぜこの東アジア圏に偏在しているのでしょうか。その背景には、食生活や遺伝的要因と並びヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)という細菌の感染が大きく関わっています。胃がんリスクを正しく理解し、予防するために、ピロリ菌との関係を知ることは極めて重要です。
ピロリ菌は、強酸性の胃の中に生息できる特殊な細菌です。感染すると胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、これが長年にわたると胃粘膜が薄く痩せてしまう「萎縮性胃炎」へと進行します。
この萎縮性胃炎は胃がんの前段階と考えられており、がんが発生しやすい要因となります。実際に、ピロリ菌感染者は非感染者に比べて胃がんになるリスクが5倍以上も高いとも言われており、日本の胃がん患者の多くがピロリ菌に感染しています。また、東アジア圏で胃がんが多い一因として、この地域では特に悪性度の高いタイプのピロリ菌の感染率が高いことも指摘されています。
したがって、胃がんのリスク管理は、まず自分がピロリ菌に感染しているかを知ることから始まります。検査方法には、胃内視鏡(胃カメラ)を用いる方法のほか、呼気、血液、便などを用いる身体的負担の少ない方法があります。検査で陽性と診断された場合、除菌治療が推奨されます。
除菌治療は、胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質を1週間服用するのが一般的で、これによりピロリ菌を胃から排除します。除菌に成功すると、胃の炎症が改善し、将来の胃がん発生リスクを大幅に低減できることがわかっています。
このように、東アジア圏で多い胃がんの最大のリスク因子はピロリ菌です。ピロリ菌検査で感染の有無を確認し、陽性であれば除菌治療を行うことが最も有効な予防策となります。
そして、除菌後も決して油断せず、定期的な内視鏡検査を継続することが、万が一のがんの早期発見と完治に繋がる鍵となるのです。
