文化 芦屋歴史紀行 その三百四十七

新人学芸員が、芦屋町の歴史を基本から探る不定期連載第4回です。前回に引き続き、芦屋の地層と化石をテーマに紹介します。

■芦屋層群の生痕(せいこん)化石
はじめに、前回紹介した夏井ヶ浜の不整合層でよく見られる化石を紹介します。芦屋層群の大部分は、浅い沿岸でたまった砂や泥でできた地層です。そのため、浅い海に棲(す)む様々な生き物たちの活動の跡がたくさん見られます。生き物の活動の痕跡が地層中に残されたものを生痕化石といいます。代表的な化石に、縦棒状の「オフィオモルファ」や、枝分かれした「タラシノイデス」があります。これらは違った形をしていますが、どちらも甲殻類の棲み跡だったと考えられています。

■芦屋層群の地質調査
「芦屋層群」が命名されたのは、大正14(1925)年のこと。ちょうど今年で100年になります。芦屋層群の研究がこれほど早い時期に行われたのは、石炭産業がきっかけです。当時、筑豊炭田では、石炭層が採算の取れるような深さにあるかを調べるための地質調査が進められていました。この過程で、芦屋層群の調査が進められたのです。

■「アシヤ」の名を持つ化石たち
昭和3(1928)年に長尾巧博士(1891~1943)が発表した、北部九州の炭田地域の化石を網羅した論文があります。この論文で新しく名付けられた化石の中に、「アシヤ」の名前を持つ化石があります。アシヤキララガイ(二枚貝)、アシヤニシキ(二枚貝)、アシヤピター(二枚貝)、アシヤツノガイ(角貝)、アシヤタマガイ(巻貝)、アシヤヨウラク(巻貝)の6つです。これらの化石は和名だけでなく、世界で使われる学名にも「ashiyaenisis(enisisは地名を指す語尾)」の名前がついています。長尾博士によって採集された芦屋層群の化石たちは現在、東北大学総合研究博物館に収蔵されています。他にも、和名で「アシヤ」の名前をもつアシヤブンブク、アシヤフミガイ、アシヤキリガイダマシなどがあります。これらはすべて、芦屋層群で発見されたことにちなみ、名付けられたものです。「ashiya」の名前は芦屋層群と化石たちによって世界的に有名なのです。

■※長尾巧博士…福岡県田川市出身。東北帝国大学卒業。北海道帝国大学、東北帝国大学の教授を務める。恐竜「ニッポノサウルス」の発見・命名者として有名。

今回紹介した化石の一部は、芦屋歴史の里に展示していますので、ぜひ見に来てください。
(芦屋歴史の里)