- 発行日 :
- 自治体名 : 福岡県吉富町
- 広報紙名 : 広報よしとみ 令和8年1月号
夜と朝のあいだに揺れる水面は、まるで深呼吸をするように静かに波を寄せては返します。暗がりに残る夜の気配と、東の空に差しはじめた朝の光。その狭間で、海は一日の始まりを予感させるように、淡く揺れ続けています。
そのリズムに合わせるように、漁師たちの船が港を離れ、薄明の海へと溶けていきます。小さなエンジン音と、船べりを打つ水音だけが静かに響く時間。吉富町に暮らす人々にとって、この光景は当たり前の日常かもしれません。しかし、この「当たり前」を支えるために、漁師たちは日々命を海に預け、海と語り合いながら仕事に向き合っています。
吉富町の海は、決して広大とは言えません。けれども、その小さな海からは季節ごとに異なる表情と、豊かな恵みがもたらされます。潮が変わる瞬間、風が運ぶ匂い、雲の動き。海と共に生きる人々は、言葉にしがたい細やかな変化を読み取りながら、一本の網、一度の操業に心を込めてきました。
■海と共に生きる
吉富町の人々は、昔から海と共に暮らしを営んできました。漁業の歴史は縄文時代へと遡ると言われ、長い時の流れの中で、漁はただの生業ではなく、地域の文化を形づくる大切な営みとなりました。
現在の吉富漁業協同組合は明治三六年に結成され、地域の暮らしを守る役目を担ってきました。荒天のなか自然と向き合い、仲間と力を合わせ、家族と共に喜びを分かち合う。そこには、町の歴史を支えてきた数えきれない物語があります。
これまでに先人が築いてきた漁の知恵や技術は、現代の漁師たちの手によって確かに受け継がれています。重く厚い網を手際よく操る動き、魚の気配を読む眼差し、海を敬う気持ち。そのすべてが、吉富町の漁業の礎となり、明日を生きる力となっています。
今月は、これまであまり紹介することのなかった吉富町の漁業について、一部をご紹介します。港の奥に隠れるように続いてきた日々の努力や、家族の想い、そして未来へつなぐ挑戦。海の香りを胸いっぱいに感じながら、この小さな町で紡がれている物語をご覧いただき、吉富町の海について一緒に考えてみませんか。
■寒さが育てる「冬の魚」のおいしさ
冬の魚がおいしい理由は、海の寒さにあります。水温が下がると、魚は体温を保つために体内に脂肪を蓄えます。この脂が身にしっかりと入り込むことで、冬の魚は身が締まり、うま味とコクが増します。特に1月は、脂ののりが最高潮を迎える魚も多く、漁師にとっても魚の状態を見極める大切な時期です。1月に旬を迎える魚介類は次のとおりで、私たちの食卓で馴染みが深いブリやヒラメ、カキなどは今がおいしい季節となりました。漁では、魚の身の張りや色、触ったときの弾力など、長年の経験を生かして良い魚を選び抜いています。冬の海で獲れる魚には、自然の厳しさと、それに向き合う漁師の知恵が詰まっています。
■吉富町「アサリ再生計画」
かつて吉富町は、国内でも有数のあさりの産地として知られ、特に出汁の旨さに定評があり、有名料理店でも使われてきました。しかし近年は、漁獲量が年々減少し、厳しい状況が続いています。そうした中、漁業者たちはかつての豊かな漁場を取り戻そうと、あさり資源の回復に日々奮闘しています。人の手と想いを重ねながら、吉富の海は少しずつ力を取り戻しつつあります。再びあさりが豊かに育つ海を目指し、吉富の挑戦はこれからも続いていきます。

