くらし 長崎県立大学 シーボルト校研究紹介 Vol.52

長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。

◆大学生が紙芝居の文化を学ぶ意義
国際社会学部国際社会学科
柳田多聞准教授

日本人にはおなじみの「紙芝居」が、世界的にはとても珍しい形態のメディアであることをご存じでしょうか?お隣の韓国や中国からの留学生もほとんど紙芝居を見たことがないそうです。紙芝居を楽しむひとときは、わが国独自のコミュニケーション文化なのです。
私の専門分野は心理学で、紙芝居を楽しむ場で、人々が顔を見合わせて豊かにコミュニケーションを繰り広げるところに注目しています。ゼミの学生たちには、紙芝居上演に取り組むことを通して、「コミュニケーションに大切なことは何か」を深く考えるように呼びかけています。
ただし、ここでいう「コミュニケーションに大切なこと」とは、「魅力的に自己表現すること」ではありません。紙芝居を演じる上で重視することは、作品の物語を深く読み込んでその魅力を観客にしっかり伝えること、そしてその物語を味わうことで生まれる気持ちを観客のみんなと一緒に分かち合うこと、です。「紙芝居を楽しむ文化」とはすなわち、「共感を尊ぶ文化」なのです。ですから、学生は「演じ手」として、作品の絵と言葉(脚本)の意味を深く読み取り、作者(脚本家と画家)が作品に込めた思いや願いに、まず自分自身が共感しようと努めます。そうして自分が味わった気持ちを、今度は観客にどのように伝えればよいのか、を考えるのです。
ある卒業生に「学生時代、紙芝居上演に取り組んだ経験は、社会生活に何かプラスになっている?」と尋ねました。すると、こんな返事が返ってきました。まず、人前でも話し慣れている気がする。また、作品をじっくり読み込むことが楽しかった記憶があり、何かにつけて「これはどういう意味?」「どういう意図で使われた言葉?」と疑問を持つようになった。そして、「聞き手」を意識する気持ちをもち、自分が伝えたいことを相手に分かりやすく伝えようとする態度が身についた、と話してくれました。
この三つを挙げてくれたことは、私にとってはとても嬉しいことでした。