- 発行日 :
- 自治体名 : 鹿児島県指宿市
- 広報紙名 : 広報いぶすき 2025年7月号
~3本の矢~
故事で3本の矢と言ったら、戦国武将の毛利元就が3人の子どもたちに訓示したことが有名で、一本は弱くても3本束になれば折れない、兄弟助け合って戦国の世を生き抜いてほしいと言った内容だったかと思います。しかし、最近では安倍晋三元首相が経済対策で打ち出された一本目の矢、二本目の矢、三本目の矢と矢継ぎ早に放つ矢のことが有名です。ここでは、後者の3本の矢についてお話しします。
21世紀に入り、医療は次々と進歩しています。
まずは、一本目の矢としてがん診断・治療についてですが、特に治療については最近目覚ましい発展を遂げています。今までの治療が既製品であったとすれば、新しい治療はオーダーメイドと呼べます。光免疫療法が2020年9月に世界で初めて日本で承認され、2021年1月に保険適応となりました。がん細胞の遺伝子検査をして表面に付着するタンパク質に、光に反応する色素をつけた物で、近赤外線を照射することで、がん細胞だけを破壊させるとともに、壊れたがん細胞の中から出てくるがん抗原を周囲の免疫細胞が認識して免疫が活性化され、残ったがん細胞も破壊するという、一粒で二度おいしいというどこかで聞いたことのあるような優れた治療法です。がん診断についてもPET(ピーイーティー)検査からMRI(エムアールアイ)を使った検査やがんのマイクロRNA(アールエヌエー)を使っての血液検査等が開発されつつあります。
二本目の矢としては、大阪万博でも話題になっている再生医療です。再生医療とは、機能障害・不全となった組織や臓器を、細胞・人工材料を使って失われた機能を再生させる医療です。現在、日本で健康保険の適応範囲となっている再生医療は7種類あります。詳細は割愛しますが、iPS(アイピーエス)細胞を使って心臓や肝臓のシートを作成してそれらを移植する治療が実用化され脚光を浴びています。脳・脊髄については、ステミラック注と言って培養した骨髄幹細胞を点滴によって、患者さんの体内にもどす治療で、事故などの外傷による脊髄損傷の治療に保険が適応されるようになりました。また、パーキンソン病に対して細胞移植の実用に向けて現在、申請が進んでいます。詳しくは厚労省のホームページを御参照下さい。
さて、三本目の矢は何でしょうか?私は認知症の新しい治療がそれに当たるのではないかと思っています。今までは、認知症にかかった人への治療薬はありましたが、認知症にかかる前の予防薬はありませんでした。しかし、2023年9月25日、日本のエーザイ社と米国のバイオジェン社が開発したレカネマブ(商品名:レケンビ)が「アルツハイマー病による軽度認知障害、および軽度の認知症の進行抑制」の効能・効果が厚労省により薬事承認されました。これはアルツハイマー病の原因と言われるアミロイドβ(ベータ)を脳から取り除く治療です。
まだ始まったばかりで今後を占うのは早計ですが、将来的にはアルツハイマー病の治療は予防へと動き始める可能性があります。指宿地区では各医療機関が鹿児島大学の認知症疾患センターと連携しており、治療が既に始まっております。詳しくは、かかりつけの先生にご相談ください。
今月のドクター:指宿医師会 増田 次俊(ますだつぎとし)
問合せ:指宿医師会
【電話】34-2820