くらし 600年の歴史を誇る 香り豊かな酒 泡盛(1)

11月1日は「泡盛の日」です。昨年12月5日に、泡盛が日本酒や本格焼酎などとあわせて「伝統的酒造り」としてユネスコ無形文化遺産に登録され、今後ますますの盛り上がりが期待されます。
今号では、泡盛の奥深い歴史や、特徴、楽しみ方をお届けします。

■時代とともに歩む泡盛
現在、泡盛は沖縄本島や離島を含め46の酒造所で造られていますが、琉球王国時代は首里三箇(さんか)(赤田、崎山、鳥堀)に住む焼酎職40人にしか認められていませんでした。その理由としては、王府に近く監督しやすかったほか、酒造りに必要な水が豊富にあったことが考えられます。
琉球王国の解体後、王府による泡盛の統制がなくなり民間でも酒造りが行われるようになると酒屋はまたたく間に増え、『沖縄県統計書』によると、1896(明治29)年には県内の製造業者は272戸にのぼり沖縄県の主要な産業として発展していきました。
日露戦争のころには、泡盛は軍用品や工業品アルコールとしても需要が多く、生産量が大幅に増え、その流れは昭和の時代に入っても続き、県外輸出も伸びていきます。しかし、日中戦争が始まると、泡盛業界も「ぜいたくは敵」の経済統制に飲み込まれていき、真珠湾攻撃後には、製造が制限されていきます。そして10・10空襲で那覇市は壊滅的な被害を受け、尊い命だけでなく多くのものを失いました。

■ニクブクの切れ端が泡盛を救う
戦後、ゼロから泡盛の製造再開を試みるも、泡盛造りに欠かせない黒麹菌がない問題に直面します。その最中、咲元酒造の2代目蔵元佐久本政良は、廃墟となった酒蔵の土の中からニクブク(稲わらのむしろ)の切れ端を見つけます。戦前の泡盛造りは、床に敷いたニクブクの上に蒸し米を広げて黒麹菌をまぶして米麹をつくっていたため、掘り出したニクブクの繊維をもみほぐし、炊いた米にまぶし様子をみたところ、黒緑がかった色に変色し、麹の香りを放っていたそうです。佐久本は、この黒麹菌を他の蔵にも分けあたえ、戦後の泡盛復興への道を開いたと言われています。

■元からタイ米ではなかった!?
泡盛の原料米は、現在はタイ米を使用することが多いですが、元々は沖縄の地元の米や粟を原料としていました。しかし、明治20年代以降から大正期にかけて、米価が高騰したこともあり、中国やミャンマー、タイなどの外国産の米が使われるにようになり、種々の米を試した結果、タイ米が泡盛の製造に一番適した米であることが判明し、昭和初期にはタイ米が泡盛の原料米として定着していきました。

◇タイ米を使用する主な理由
・麹や醪(もろみ)の工程で温度の管理がしやすい
・サラサラしているため、麹にしたときに扱いやすい
・アルコールの収穫量が多い

■名前にまつわる4つの説
沖縄の人々は伝統的に泡盛を「サキ(酒)」と呼び、親しんできました。「泡盛」の名称が初めて確認できるのは1612年。この年、島津家から徳川家康に献上された琉球酒が『駿府記』に「焼酒」と記され、「アハモリ」とルビが振られていました。その後の献上品目録では、初めは「焼酒」や「焼酎」と記されていましたが、1671年に琉球王国の尚貞王が徳川家綱に献上した目録で初めて「泡盛」という名称が使われています。

◇1「泡」由来説
昔、蒸留したての泡盛は泡がさかんに盛り上がり、アルコール度数が高いほど泡が消えにくかったため、泡立ち具合を度数判断の目安にしていたそうです。この計り方の「泡を盛らせてみる」から「泡盛」となったとする説。

◇2「粟」由来説
「もり」を酒の古語とし、昔は主に粟を酒の原料としていたため「粟もり」と言っていたものに、「泡盛」の宛字が使用されたとする説。

◇3薩摩命名説
琉球から薩摩を通して幕府へ泡盛を献上する際に、薩摩藩が九州の焼酎と区別するために「泡盛」と命名したとする説。

◇4サンスクリット語説
古代インドのサンスクリット語で、酒のことを意味する「アワムリ」に由来するという説。

参考文献:「沖縄戦と琉球泡盛ー百年古酒の誓い」著/上野 敏彦 出版/明石書店、「泡盛をめぐる沖縄の酒文化誌」著/萩尾 俊章 出版/ボーダーインク

■泡盛ができるまで
シンプルな製造工程ですが、ひとつひとつの工程で酒造所独自の手法が取られているため、各酒造所の銘柄にはそれぞれの特徴が出てきます。

◇1.洗米・浸漬・蒸米
洗米後、米を水に浸す。その後、米をムラなく蒸します。

◇2.黒麹菌の種付け
蒸した米を冷却し、「黒麹菌」を混ぜます。
[特徴]
日本酒などが黄麹菌を、焼酎が白麹菌を使うのに対して、泡盛は黒麹菌を使用します。黒麹菌は、製造工程でクエン酸を大量に生成するため、ほかの麹菌より醪(もろみ)のpHを下げ、雑菌による汚染を防ぐことができます。そのため、高温多湿で環境が厳しい暑い季節でも醪を腐らせることなくお酒をつくることができます。

◇3.米麹づくり
黒麹菌を混ぜた米を数日寝かせます。

◇4.全麹仕込み
米麹に酵母と水を加えて醪にし、アルコール発酵させます。
[特徴]
焼酎は、麹を仕込む一次仕込みのあと、米や芋などを仕込む二次仕込みを行うのに対し、泡盛は1回で仕込みます。

◇5.蒸留
醪を単式蒸留器で蒸留すると、泡盛の原酒ができます。
[特徴]
連続式蒸留器に対して、単式蒸留器は、原料の個性を強く持った複雑な香りや味わいになります。

◇6.貯蔵・熟成
泡盛の原酒は、ステンレスタンクや甕に貯蔵し熟成させます。
[特徴]
熟成3年未満を一般酒、3年以上を古酒として販売します。