くらし 市長コラム 夢かなうまちおびひろ

■数字を考える
帯広市長 米沢則寿
最近、数学に関する面白い本と出合いました。数学といっても数式が出てくる本ではなく、赤ちゃんでも数を認識しているということを実験から証明するといった内容で、人間は生まれながらにして視覚、聴覚、味覚などと同じように、数字に対しても直感的な感覚が備わっているのだそうです。数を認識する能力が、生きていく上で大切な感覚として備わっていることを知り、数字に対する概念が変わる一冊でした。
昨今、テレビやインターネット、SNSなどを通じて大量に流れてくる情報には、数値化された情報やデータがあふれています。広告などで街頭調査やアンケートなどの結果が数字で示されると説得力が格段に高まるように、数字には人の心理や行動に影響を及ぼす強い力があります。
このため、一側面だけを切り取ったデータや、都合の良いように加工されたデータから誤った考えに誘導されるといったこともあるかもしれません。
数字を正しく利用するためには、その数字が誰がどのような目的で作成したものなのか、一部ではなく多角的に捉えているか、何と比較しているのかなど、数字の背景を意識して読み解くことが重要だと思います。
一方で、そもそも数字だけで物事の全体像や本質というものを把握できるのでしょうか。私は以前、勤めていた投資会社で人事部門を担当していたことがあります。人事評価では主に売り上げ(投資)金額を目標設定し、その達成率で評価される定量評価が中心でした。
しかし、その年の売り上げ金額が目標に達していなくても、顧客との良好な信頼関係を築いて会社の評価を上げた場合、長期的な視点で見ると会社にとっては大きな利益となり評価に値します。こういった定性評価をどこまで反映させるかについて悩んだ経験があります。
数字の裏側に隠れている考慮すべき事実はないか、比較している数字の単位や範囲は適当か。数字から感じる違和感なり、数字に対する疑問を無視せず、広い視野で考えてみることは私たちにとって生きるための有力なツールになります。
3月14日は円周率の3・14にちなんで「数学の日」だそうです。たくさんの情報があふれる今、人間に元来備わっているといわれる数字への感覚に磨きをかけ、判断の質を上げることが求められています。