しごと まち ひと しごとVol.64

■食から伝える町の魅力 多くの人の手に届くように
株式会社デリシャスフロム北海道代表取締役 前田伸一(まえだしんいち)さん
「おいしいものは北海道から」。北海道の食材を加工し、多くの人に届けたいという思いを胸に、北海道深川市出身の前田伸一さんが2014年に立ち上げた『株式会社デリシャスフロム北海道』は、今年で12年目を迎える。
小さい頃から料理が得意だった前田さんは、7歳の頃には友人にチャーハンを作って振る舞ったという。一人の料理人として、24歳でオーストラリアに自身の店を構えたが、2011年の東日本大震災をきっかけに北海道に戻る決意をした。
「心配な気持ちから一時帰国の予定で戻った日本には、復興への熱意が溢れており、自分が海外から支援を行うよりも、日本で働き生きることの方が、力になれるのではないかと感じました」
震災の2年前から、年に一度ニセコエリアを訪れていた前田さんは、知人の紹介で町内ホテルのレストランでオーナーシェフを務める傍ら、オーストラリアで出会ったジンジャービアからヒントを得て、この地域の水を生かした、体に優しい発酵飲料の製造を目標に活動を始めた。
使用する材料は、全て地元産やオーガニックにこだわり、当時町ではほとんど栽培されていなかったショウガの栽培にも取り組んだ。町内の畑を使い、毎日畑に足を運びながら、自身の目で栽培の可能性を確かめていった。そうして誕生した『ハッコージンジャー』は、今では町の特産品として、ふるさと納税の返礼品などになっている。
「長く町に住んでいる方には『当たり前』のことでも、転入してきたからこそ気付けるものがあると思います。自分は、羊蹄山の湧き水のおいしさをもっと多くの人に届けたいと、試作と失敗を重ね、ようやく納得のいくものを完成させることができました」
失敗をすることで自身のことをより知ることができると話す前田さんは、学生時代から挑戦を恐れず数多くの経験を積んできた。現在は、倶知安農業高校や倶知安高校での講話や食育活動、学生のインターンシップの受け入れなどを通じ、町内の子どもたちの育成活動にも力を注いでいる。
「この町には多くの人が集まり、世界から多くの企業が進出しています。そして、おいしい食材も豊かな自然もあって、まだまだ大きな可能性を秘めていると感じます。だからこそ、学校も、企業も、地域も一体となって、この町の魅力を引き出していけたらと思っています」
おいしいものを届け、地域を元気にしたいと、挑戦を続ける前田食から伝える町の魅力多くの人の手に届くようにさん。その情熱は、どこまでも広がり多くの人に波及していくだろう。

※まち ひと しごとは不定期連載です