- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道泊村
- 広報紙名 : 広報とまり 令和7年3月号
■鰊を待つ3月
鰊御殿とまり館長 増川 佳子
1月後半頃からまるで春がきたかと思えるほどの暖かな日が続き、2月初旬の大きな低気圧の通過はありましたが、気温の高い日が多く、今年の春の到来は早そうです。2月4日の道新記事には『石狩・乙部はや群来』という記事が載りました。「群来は例年2~3月で早い印象。今後の豊漁が期待できそう」(石狩湾漁協)「稚魚放流の成果が見えた。いい兆候でうれしい」(乙部町産業課)と報じられていました。いよいよ鰊を待つ季節になりました。
さて、『泊村鰊漁業史古宇』によると出稼ぎ漁夫は2月末には来村し、“あご合わせ”が終わると3月初め頃から船頭の指示で、順次仕事が始められていくと記載されています。
[3月初め]
○漁労の準備
・船出し:船を倉から引き出し、点検修理する。
・雪切り:硬くなっている雪の除雪。海へと落とす。
・木架(なや)づくり:身欠鰊をつるすため。
・山仕事:道具や梱包用の木材の切り出し
・漁具の修理・網やロープの確認
・粕炊き釜場、締め胴の配置
[3月末]
○網おろし
・型入れ:波や潮流で網が流出、移動しないように石を詰めた土俵と綱で海中に固定する。凪を見て投網される。
〈若衆(出稼ぎ漁夫)の仕事着〉
チャンチャンコ(袖無)とツッポウ木綿の短いのに赤ケット(毛布)脚絆にワラジばき
『泊村鰊漁業史古宇』にしん漁場の作業暦より
寒い戸外での力仕事も“鰊漁が始まる”という気持ちの高揚で乗り切ったのでしょう。一方で、漁夫たちの食事の用意をする勝手(台所)も2月下旬から慌ただしくなったようです。
○漁夫来着前の勝手諸準備
漁夫来場はその年々によって一様ではないけれども、大概2月下旬より3月上旬の間で漁夫来場前1週間位の頃、勝手諸器具及び道具の毀欠有無を調査して、不足毀欠が有るものは補欠し、過剰に有るものは蔵して不日の急に備えなければならない。
○漁夫来場安着祝酒の事漁夫来着当日は雇茶碗で一人一杯当たりの割で全員に祝として供する。菜は大概、数の子の和え物、ぬた等がよい。煮汁は大概、鱈等が最も適当である。酒は10人分を片口(口桶)に入れて食卓に供するものとする。故に漁夫85名来着したとして酒は一人1合として1斗位も有れば事足りる。(但し例年地酒を供する。)
〈若衆(出稼ぎ漁夫)の食べ物〉
三平汁がほとんど常時で、いも、大根、塩鰊、切り込み、漬物等の料理。味付けは塩と味噌で醤油は使われない。お茶の替わりに湯を用いた。
武井家資料『漁場勝手慣例諸項便覧』(明治42年度春)より
4月開館の『鰊御殿とまり』もそろそろ準備が始まります。