くらし 〔特集〕馬を追いかけて

長い間、人間の大切なパートナーだった馬。日常的に触れ合うことは少なくなった今も、その姿は多くの人を引きつけます。令和8年の主役を、一関で追いかけました。

■馬のまち千厩
▼大盛況だった競馬
名馬の産地として知られる千厩。馬とゆかりの深いこの地にはかつて競馬場があり、駆け抜ける競走馬に人々が熱狂しました。
競馬場があったのは、現在の国道284号沿いにあるマイヤ千厩店の辺り。当時は陸上競技場や野球場として使用された町営総合グラウンドで、外周に競馬のコースを備えていました。三方を囲む丘陵は天然の観覧スタンドでした。
千厩競馬は昭和3年ごろに始まり、戦況悪化で一時途絶えた後、戦後に再開し昭和32年ごろに幕を下ろしました。時代によって千厩競馬会や東磐家畜商協同組合などが主催し、雨などによる中止はあったものの基本的には春と秋の年2回、2日間ずつ開催。上位の馬には会社や商店街などから集めた賞金が贈られたようです。
「競馬の日はすごい人出で、街が大にぎわいだった」と懐かしむのは千厩の白石惠一(けいいち)さん(80)。こどもの頃に何度も出かけ、競走馬と騎手の姿に夢中になりました。市文化財調査委員の菅原良太(りょうた)さん(49)は「各地にあった花競馬は広場などで行われていたらしいが、千厩競馬はコースを造っていて本格的だったようだ」と想像します。
馬産が盛んな東磐井の中心で、馬と人が集まる場所だった千厩。競馬の盛り上がりから馬への熱い思いがうかがえます。

▼地名の由来
千厩という地名の成り立ちにはいくつかのいわれがあります。一つは前九年合戦の頃、源義家がこの地に陣を敷き、雨露をしのぐために岩窟に千頭の軍馬をつなぎ馬屋(厩)としたことに由来する説です。また、奥州藤原氏全盛期、厩舎を建てて多くの名馬を産出したことからとする説や地形の「狭場谷(せばや)」が由来とされる説なども。
いずれも真相は不明ですが、古くからこの地で暮らした人たちと馬との関わりが基となっているのかもしれません。

▼大夫黒で地域活性化
「天下の名馬奥州に若(し)くは莫(な)し 奥州の良馬此の馬に若くは莫し…」
千厩の商店街の一角に立つ顕彰碑には、源義経の愛馬「大夫黒(たゆうぐろ)」をたたえる文章が記されています。大夫黒は平安時代末期、源平合戦で活躍した名馬。奥州藤原氏の3代秀衡から義経に贈られる際、千厩の地で鍛えられたと伝わります。平家追討の一ノ谷の戦いでは人馬一体となって「鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし」を敢行。屋島の戦いでは義経をかばい命を落とした家臣の弔いにと四国に預けられ、現在は香川県高松市に墓があります。昭和63年には千厩の参拝団によって供養碑も建てられました。
大夫黒をはじめ、馬事文化の継承に取り組むのが「千厩・大夫黒・馬っこの会」。郷土の馬の歴史を学ぶ研修や大夫黒の生涯を描いた紙芝居の披露、学校などでの講演や特別展の開催、さらにはリーフレットやマスコット、菓子の製作といった活動を通して千厩地域の活性化に一役買っています。
馬と共に発展してきた町のシンボルづくりとして取り組んだのがモニュメントの建立です。令和5年に完成し、現在、顕彰碑と同じ敷地内に力強く立つ大夫黒が、かつて暮らしたであろう千厩を見守っています。
「まちを知ってもらうため、馬車馬のように走り回った」と振り返るのは、同会の昆野洋子(ようこ)会長(83)と事務局の千葉正子(まさこ)さん(70)。大きな事業は一区切りとなりましたが、今後も馬にちなんだ地域の盛り上げを続けていきます。「人間と馬は古代からつながりがあり、歴史にとって欠かせない存在」と昆野会長。千葉さんは「人と馬との絆の深さを伝えていきたい」と馬愛は尽きません。

▽せんまや馬事資料館
千厩酒のくら交流施設の敷地内にあり、昔ながらの馬具や、馬との暮らしを伝える資料などを展示している。入館無料。
※詳しくは本紙をご覧ください。

■馬に会いたい
本市には乗馬クラブや牧場、観光馬車など馬と触れ合える場所があります。ここで暮らす馬たちと、馬と生きる人に会いに行きました。

▼レベルに合わせて学べる乗馬クラブ
風薫る丘みちのく乗馬クラブ(小野寺正二(しょうじ)代表)は、室根山の麓に広がる自然豊かな環境で初心者からベテランまでレベルに応じたレッスンを提供している乗馬施設です。ウエスタンとブリティッシュ両スタイルの乗馬ができるのは珍しく、全国から愛好家らが足を運びます。屋内馬場もあるため、天候や季節に左右されずに練習することが可能。お試し体験はもちろん、牧草地や海岸など自然の中での外乗(会員限定)ができ、競技会に出たい人や指導者資格取得を目指す人向けのプログラムもそろっています。
小野寺代表(60)は「乗馬は男女関係なく、高齢になっても楽しめるスポーツ」と語り、できれば長く続けることを薦めます。なぜなら、乗馬の魅力は「馬を自分でいかに動かすことができるか」と奥が深いため。馬と心が通じたとき、室根高原の爽やかな風の中で新しい景色が見えるかもしれません。
※詳しくは本紙をご覧ください。

問合せ:風薫る丘 みちのく乗馬クラブ(一関市大東町大原字山口51-9)
【電話】72-4321

▼養老馬がのんびり暮らしています
佐々木牧場(佐々木恭平(きょうへい)場長)の厩舎(きゅうしゃ)には、現在5頭の馬がいます。このうちの2頭は「養老馬」。現役を引退した元競走馬や元乗用馬で、愛馬に天寿を全うさせたいと願うオーナーから預託を受け、良い最期を迎えてもらうための世話をしています。現役時代の緊張から解き放たれた馬は、伸びやかに草をはみ、仲間と共に穏やかな余生を過ごします。老齢期ならではの健康ケアにも丁寧に対応しながら“第二の馬生”を見守っています。
馬との距離をぐっと縮めてくれる出張馬車の運行も人気で、佐々木場長(39)と妻の牧恵(まきえ)さん(38)が各地の地域イベントなどに出向き、ひづめの音を聞きながら馬車に揺られる特別な時間を提供しています。
「今ここにいる馬たちに良い終わり方をしてほしい」と願う佐々木場長。ほのぼのと牧場で暮らす馬たちの様子を見学することもできます。

▽出張!凛ちゃん馬車!
出張馬車を引くのは、ハフリンガーと道産子のハーフの牝馬・凛ちゃんです。イベントのアトラクションでこどもたちの笑顔を運んだり、ガイドを乗せて歴史名所を巡ったりしているほか、ウエディングの演出として登場することも。「大好きなリンゴとニンジン待ってまーす!」(凛ちゃん)
※詳しくは本紙をご覧ください。

問合せ:佐々木牧場(一関市中里字大平山23-76)
【電話】48-4461