その他 ふるさとへの便り

■帰郷
首都の開花宣言が話題にされる3月下旬。母の一周忌で故郷に向かう。一年前は妻と二人だったが、今回は孫も連れだつ帰郷になった。生まれた翌年に東成瀬へ行ったという孫は、今年の6月には10歳になる。今度、一年生になる年下の孫は初めての秋田である。
歳とともに故郷は遠くなる。ましてや、兄弟や、甥、姪が揃うことなどは、特別な事でもなければ、なかなか実現しない。亡き母が引き寄せる機会と思い、娘に声をかけた。二泊三日の帰郷はちょっとした旅気分になる。弁当と缶ビールを買い、東京発10時18分のこまちに乗り込む。盛岡を過ぎて田沢湖線に入ると大雪の名残が見え始めた。沿線の雪解けにスマホを向けながら大曲に到着。終着駅は横手。奥羽本線のワンマン列車「横手行」が待っている。このワンマンにやや戸惑う。「横手までいくら?」運賃表を見る。「秋田方面」の運賃は掲げているが「横手方面」は空欄。大曲を基準にした運賃表らしい。出発して次の駅に着くと表示されるようである。
地元の乗客であればどうってこともないだろうが。Suicaが使えないのは概に承知。運賃箱を見ると小銭の心配をしたくなる。なければ両替すれば済むことだが…停車を待って運転士に聞いてみた。「横手駅は改札口で払って下さい」と言う。列車内の運賃箱は「無人駅」の対応?
首を傾げながらワンマンを降りた。

横手からはレンタカーでホテルブランに。初日の夜は、十何年振りという叔母との再会。積もる話は尽きることを忘れる。あれもこれもと欲張るが、あっという間に時間が過ぎる。名残惜しみながら叔母を家に送る。その道すがら「イタチ?」と遭遇。ヘッドライトに急(せ)かされるように、夜中の成瀬路を横断する小動物に、何とも言えない温かさを感じた。
翌日は母の一周忌法要。夕方からは従兄弟と久々の一杯。「いつ以来だろうか」と記憶を辿るが答えは出ない。それほど前になる。

チェックアウト当日。朝方のホテルブランは、日差しで窓が暖かく感じられるほどの良い天気。しかしホテルを出る頃には雲行きも怪しくなり、やがて雨がぽつりぽつりと落ちてきた。雨足は次第に強くなり、見る間に霙(みぞれ)に変わった。フロントガラスに激しく叩きつける霙。帰りの駅に向かう途中、思わぬ季節外れの雪に、孫たちは大はしゃぎ。良い帰郷になった。

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