くらし [特集]奥久慈漆
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- 発行日 :
- 自治体名 : 茨城県常陸大宮市
- 広報紙名 : 広報常陸大宮 2025年5月号
◆国宝重要文化財修繕で需要の高い国産の漆
日本全国の国宝などの修繕のために毎年約2.2tの国産漆が必要とされています。しかし、供給される国産漆の量は令和3年の約2tを境に減少しており、不足しているのが現状です。その貴重な供給を支える地域の一つが、常陸大宮市を含む「奥久慈」という地域です。採れた漆は奥久慈漆生産組合を通して「奥久慈漆」の名で日本各地に出荷されています。
◆仕上げ向きな奥久慈漆
奥久慈漆は「乾きの速さ」と「透けの良さ」が特徴です。その特徴から、漆塗りの艶や美しさを決定づける仕上げの工程(上塗り)に向いているのだそうです。漆の質は土地の性質から影響を受けます。奥久慈の豊かな土地と、生産者や漆掻き職人たちの適正な管理のおかげで、漆に携わる人々からの信頼が厚い「奥久慈漆」の品質とブランドが保たれています。
◆漆は人間でいう「血液」
「漆」は傷つけられたウルシが修復しようと出す樹液です。人間に例えると、切り傷ができたときに出る血液や滲出液のようなものです。これを利用して、植樹から約10年経ったウルシに傷をつけて樹液を採るのが「漆掻き」です。
また、漆を掻く数日前には、漆が出るよう刺激を与えるために3〜5cm ほどの傷を付けます。これにより、傷の付近に漆が集まって、効率的に掻くことができます。
◆掻く時期によって性質が変わる漆
漆液は掻く時期によって性質が異なります。問屋から採れた時期を指定されることもありますが、多くは、性質の異なる漆を混ぜて、漆塗り職人が使いやすいように精製されるといいます。
初辺(はつへん):6月〜7月中旬に採取
最初に採れる樹液で、水分を多く含んでいます。そのため、乾きが速い性質を持ちます。
盛辺(さかりへん):7月中旬〜9月中旬に採取
初辺の後に採れる樹液で、上塗りや黒・朱などの色を塗る漆に最も向いています。その性質から需要も高い漆です。
遅辺(おそへん):9月中旬〜10月下旬に採取
裏目:10月下旬〜12月中旬に採取
遅辺以降に採れる樹液は、樹液の成分が濃いため乾きが遅く、接着力があります。その利点を生かし、蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)といった漆器への装飾、下地塗りに使われます。
※傷をつけることを「辺」といいます。
◆漆は4日ごとに掻く
漆掻きは4日置きに行います。これは、一度に複数の傷をつけると木が弱ってしまい、漆が出なくなってしまうためです。逆に、傷を付けてから1週間以上が経ってしまうと、傷の付近に集まっていた漆が、修復の役目を終えたと認識し、木全体に散らばってしまいます。木を「生かさず、殺さず」、漆を掻くための日取りも漆掻きには重要な要素です。
◆漆を掻き終えると木は生涯を終える(殺し掻き)
植樹から10年経ち、漆を掻き終えた木は、切り倒し、その役目を終えます。ただ、切り倒した後、切り株や根から新しい芽が出てくるため、その芽が成長すると、再び漆を掻くことができます(萌芽更新)。
●漆の雑学コラム
・「ウルシ」「漆」「うるし」何が違う?
「ウルシ」と表すときは木そのものを指し、「漆」と表すときは樹液のことを指します。そして、木と樹液どちらも合わせて表現するときには、ひらがなで「うるし」と書きます。
・奥久慈漆が生まれたのは水戸光圀がきっかけ!?
江戸時代、水戸光圀が藩内各地の農民の副収入を増やそうとそれぞれの規模に応じてウルシを植えさせたと言われます。そこから、奥久慈にも生産が広まり、現在の「奥久慈漆」につながりました。
●お話を伺ったのは……
神長 正則 さん
平成9年からウルシの苗木の生産を中心に奥久慈漆に携わり、過去には奥久慈漆生産組合長も務めた。現在は、苗木生産に加え、講演依頼を受け全国各地に出向いたり、自身が品種改良を行った通常の倍近い漆が採れる苗木の販売に向けて活動している。
・ウルシ生産・木地作り・漆塗りの3団体が連携
「奥久慈うるし振興会」
奥久慈うるし振興会はウルシの生産に関わる「奥久慈漆生産組合」、漆を塗る器(木地)作りを中心に行う「優巧会」、漆塗りの技術を守る「YUS(山方漆ソサエティー)」の3つの団体で構成されています。一つの地域でウルシ生産から作品制作までを行うことは全国的にも珍しく、三位一体となって奥久慈漆を振興しています。
・7月5日から漆塗り体験を開催します
YUS(山方漆ソサエティー)では、7月5日から11月2日までの全5回の漆塗り教室を開催します。詳細は5月26日発行のお知らせ版をご覧ください。
問い合わせ:農林振興課農林整備G
【電話】52-1111(内線204)