- 発行日 :
- 自治体名 : 栃木県那須塩原市
- 広報紙名 : 広報なすしおばら 令和7年10月20日号(ナンバー439)
対談
那須塩原市長 渡辺 美知太郎 × エノテカ株式会社 那須エイジング・ワインセラー 課長 相馬 克則
環境問題への意識が高まっている現在(いま)、「青木地区ゼロカーボン街区構築事業補助金」を活用し、太陽光発電設備などを導入した事業者の取り組みを紹介。今回、その事業者の一つであるエノテカ株式会社の相馬克則(そうまかつのり)課長と渡辺市長が、脱炭素経営への“想(おも)い”について対談を行った。
※脱炭素先行地域とは
2030年度までに家庭および業務その他部門の電力消費に伴うCO2排出量を実質ゼロにするとともに、産業部門などについても国全体の2030年度目標に沿った削減を、地域の特性に応じて実現する地域。本市では青木地区がその対象であり、「ゼロカーボン街区」を構築する。
■カーボンニュートラルで那須塩原の「付加価値」を高める
我慢だけじゃないわくわくする環境政策を
渡辺 美知太郎 市長
■環境配慮への取り組みをサステナビリティ推進の第一歩に
1972年生まれ。那須塩原市出身。2007年10月那須エイジング・ワインセラー開館と同時に入社。2008年から2018年まで、レンタルセラー・通信販売業務の現場リーダー。現職は、レンタルセラービジネスに特化した那須エイジング・ワインセラー倉庫責任者。
お客様のワインを最善・最良の環境であるワイン専用の倉庫でエイジングする楽しみを提供。
相馬 克則 課長 エノテカ株式会社 那須エイジング・ワインセラー
■脱炭素社会の取り組み 描く未来像
〔渡辺〕一般的に環境施策は、「ごみを削減しましょう」のように、狭く深くという考え方が多いように感じます。もちろんそれも重要ですが、本市のミッションは、環境施策においての付加価値を高めること、つまりブランディングだと思っています。
例えばお米も名産地の価格と、栃木産の価格が違いますよね。もちろんおいしさもありますが、価格差ほど味に差があるとは考えにくいと思います。これは付加価値(ブランド力)の違いだろうと以前から思っていました。だからこそ、地域の付加価値を高め、その一環として環境政策をしっかり突き詰めていきたいと考えております。
他のまちにない、本市らしいエッジ(優位性・強み)を考えたとき、基幹産業である観光や農業に影響を与える気候変動、環境への取り組みを推したいと思いました。これは再生可能エネルギーが盛んである本市に合っているなと思います。
〔相馬〕エノテカでは、ワインを愛する全ての人をお客様と考え、できる限りのサービスを提供するという長期ビジョン(ForAll W ine Lovers)を掲げており、いつまでもおいしいワインを楽しめるようにさまざまなサステナビリティ(持続可能性)を推進していこうと考えております。
ワインは自然の恵みであり、ブドウが主な原料です。ブドウは非常に気候変動の影響を受けやすく、水やエネルギーの節約だけでなく、健全な土壌の保持などが必要です。現在、ワイン業界を挙げ、世界各国で環境への取り組みが始まっております。
アサヒグループホールディングスとしてもゼロカーボンに向けて取り組んでおり、傘下である弊社でも、那須エイジング・ワインセラーに太陽光発電設備の導入を検討していました。
その中で、市が脱炭素先行地域(※参照)に選定されたということで、この取り組みに参加させていただいたという経緯があります。
〔渡辺〕ありがとうございます。ワインづくりは自然と共存し、未来へつなぐサステナブルな営みそのものですね。
以前より、本市はブドウ栽培に適していると感じていましたが、気候変動の影響を受けて栽培地域は年々北上し、近年では本市周辺でも盛んに栽培されるようになりました。元々青木地区は水が乏しく、明治の開拓によって水が引かれた歴史を踏まえ、土壌の価値や自然環境などを大切に考えていく必要があります。最近では、水資源についても考えようとウォーターポジティブ(事業などで使用する水よりも、より多くの水を自然や地域に還元すること)の勉強会を始めました。このような時期に、エノテカさんと脱炭素先行地域として連携ができたのはとてもありがたいです。
〔渡辺〕最近自治体では、レジリエンス(災害への対応能力や復旧力)の強化やエネルギーの地産地消だけでなく、カーボンニュートラルで付加価値を高めることが求められています。
例えば京都市は、文化と歴史ある伝統的な施設に再生可能エネルギーを導入し、持続可能なゼロカーボン古都(こと)モデルを進めています。
本市も酪農を中心にゼロカーボンを進める中で、より興味を惹(ひ)くような取り組みを強めていきたいと思っています。
ゼロカーボンの新しい取り組みを全国に発信することは、付加価値の周知として効果的です。そのような中で酪農家さんをはじめ、地域の人の理解を得るためにも、エノテカさんに賛同いただいたことは非常に嬉しく思います。
他とは違う「食のゼロカーボン」として、サステナブルでとても面白い取り組みだと感じます。
■太陽光パネル設備 導入の課題を越えるには
〔相馬〕那須エイジング・ワインセラーは少人数で運営しているため、太陽光パネル設備の故障やメンテナンスなどの対応が難しいと考えていました。しかし、PPAモデル(電気購入契約)だと、保守管理などを那須野ヶ原みらい電力株式会社(エネルギーの地産地消を目的とし、青木地区に設立された地域新電力会社。以下「みらい電力」)に一任することができ、不安が解消されました。メンテナンスを自分たちで行うことは難しいため、PPAモデルでの導入が一番の決め手になりました。
〔渡辺〕社会的な課題をクリアするために、民間と行政の間ぐらいの組織があるといいと感じていたので、今回のお話を聞いて、みらい電力を創設して良かったと実感しました。
〔相馬〕今回の設備設置については社内の経営陣も大きな期待を寄せていました。
ただ、当初提示された電力単価ではコスト高になってしまうため、みらい電力に相談し、最終的に供給電力単価を引き下げることができたことがとても大きいと感じています。導入後は、有事の際の非常用電源として使用できることや、弊社の環境配慮への取り組みをお客様へアピールできるほか、より安心してワインを預けていただける倉庫づくりへの第一歩として踏み出せることを期待しています。
〔渡辺〕将来的には市全体を捉えながら、まずは青木地区のブランド力を高めていくことが良いアピールになります。
住んでいる人に、災害が起きても「この地域は明かりがつく」という安心感も与えられますし、普段は自然と調和した電源を作りながら、何かあっても自分たちで電源を供給でき、地域でお金を供給できる。そんな、地域で生き延びられるようなまちづくりを進めていきたいと思っています。
〔相馬〕私どもとしても、今回脱炭素への取り組みを実施した中で、市が脱炭素先行地域に選定され、持続可能な地域として発展できるとともに補助金などの支援を受けられるため、非常にありがたい取り組みだと思っております。
