- 発行日 :
- 自治体名 : 栃木県下野市
- 広報紙名 : 広報しもつけ 令和7年12月号
Jichi Medical University Hospital
■貧血について~1度は必ず受診しましょう!~
(自治医科大学附属病院 血液科 教授 神田善伸)
貧血について最初に知っておいていただきたいことは、医療用語の「貧血」と、日常会話の中ででてくる「貧血」にはちがいがあるということです。
日常会話では、立ちくらみや、長く立っていて目の前が白く見えてしゃがみ込む、といったような症状を指して「貧血」と呼ぶことがあります。しかし、これらの症状は、いわゆる「脳貧血」で、脳に流れる血液量の減少によって発生します。一方、医療用語の「貧血」は、血液中の赤血球が基準値よりも減少した状態を指します。
今回は医学的にいう「貧血」について紹介します。赤血球は、全身の細胞に酸素を運ぶ働きをしていますので、赤血球が減少すると体内の細胞が「酸欠状態」になり、息切れ、動悸、全身の倦怠感、頭痛、めまい、顔面蒼白などの症状が現れます。しかし、これらの症状は心臓や肺などの他の病気でもしばしば起こるものですから、検査によって貧血であることを確認することが必要です。
貧血かどうかは、血液検査ですぐに分かります。赤血球の数も重要ですが、実際に酸素を運搬する役割を果たしているのは赤血球の中に含まれるヘモグロビン(健康診断などでは「血色素」と書いてあるかもしれません)ですので、ヘモグロビンの値を重視します。WHOの基準では成人男性でヘモグロビン13g/dL以下、成人女性でヘモグロビン12g/dL以下、妊婦でヘモグロビン11g/dL以下を貧血と定義していますが、加齢とともにヘモグロビンは低下しますので、高齢者では11g/dL以下ぐらいで貧血とするのが適切と考えられています。
全く症状がないのに健康診断で貧血との指摘を受けることもありますが、ヘモグロビンの値が7~8g/dL程度まで下がると、ほとんどの人に自覚症状が現れます。一般的には、ヘモグロビンが減少すればするほど、強い症状が現れますが、慢性的な貧血で、ヘモグロビンの値が長期間かけてゆっくりと下がっていった場合には、体が慣れてしまっていて症状が出にくいということもあります。
貧血はさまざまな原因によって生じます。赤血球やヘモグロビンが減少する仕組みによって、大きく二つ(産生が減少しているのか、消費が活性化しているのか)に分けられますが、両方が混在することもあります。
赤血球の産生量は網状赤血球数で推測することが可能ですが、通常の健康診断の項目には含まれていません。
◇赤血球を作り出す量が低下することによる貧血
鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血、慢性腎不全・肝障害・甲状腺機能低下による貧血、再生不良性貧血・骨髄異形成症候群・白血病などの血液疾患による貧血など。
◇出血や溶血のために消費が活性化したことによる貧血
婦人科や消化器の病気での出血による貧血や、免疫の異常によって生じる溶血、血管の障害によって生じる溶血、赤血球の膜の異常による溶血など。
これらの中で、最も頻度の高い貧血は「鉄欠乏性貧血」で、その名の通り鉄分の不足によっておこる貧血です。血液検査でフェリチン(体内に蓄えられている鉄の量を反映します)の値を確認することで診断できます。ヘモグロビンを合成するために鉄は重要な材料ですので、鉄分の不足がヘモグロビンの減少につながるのです。鉄不足の原因には、偏食、吸収障害などによる摂取不足、消化管出血、性器出血による排泄の増加、成長期・妊娠・授乳などによる需要の増加などがあります。
鉄が不足し始めても、すぐに貧血になるわけではありません。欠乏状態が進行すると、まず肝臓などに貯蔵された鉄が減少し、次に血清中の鉄が低下します。その後に、貧血が徐々に進行していきます。
鉄欠乏性貧血の診断が確定した場合は、鉄剤によって鉄分を補充します。基本は飲み薬の鉄剤です。胃もたれ、吐き気などを生じることがあるので、胃薬を一緒に飲んだり、眠る前に内服したりすることで症状を軽減する工夫を行いますが、最近は副作用の出にくい新しい内服薬も使用できるようになりました。それでも副作用が強く出る場合は注射の鉄剤で治療します。
鉄が欠乏する原因が存在する場合には、その治療もおこないます。頻度が高いのは月経出血による鉄欠乏性貧血ですので、子宮筋腫など、過多月経の原因となる婦人科疾患がないかどうかの確認が必要です。
一方、成人男性や閉経後の女性に鉄欠乏性貧血が起こった場合は、消化管の病気などによる出血での鉄欠乏の可能性もあるので検査が必要です。
時折、「貧血=鉄不足」と安易に考え、「サプリメントなどで鉄分を補充しておけば大丈夫」と自己判断する人もいますが、貧血には鉄欠乏性貧血以外にも多くの種類があり、重い病気が原因となっていることもあります。貧血の症状がある、あるいは健康診断などで貧血と言われた、というような場合には、必ず1度はしっかりと受診して検査を受けることをおすすめいたします。
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◇がんの親をもつ子どものためのサポートプログラム開催のお知らせ
自治医科大学附属病院では、がんの親をもつ子どものためのサポートプログラムCLIMB(R)(クライム)プログラムを開催しています。
主に小学生を対象に全5回行われ、子どもたちはがんや治療について学び、親ががんになったことで抱えるさまざまな感情を絵を描いたり工作をしたりしながら、みんなで考えていきます。
参加費は無料ですので、お気軽に病院ホームページまたは問い合わせ先までご連絡ください。
※CLIMB(R)プログラム(Children’s Lives Include Moments of Bravery)とは、アメリカで広く用いられている、がんの親をもつ子どものためのグループワークのことです。
日時:(土曜日・全5回)
令和8年1月17日・24日・31日、2月7日・14日 午前10時10分~正午
スタッフ:公認心理師、看護師、医療ソーシャルワーカー、ボランティア
問い合わせ先:自治医科大学附属病院 がん相談支援センター 稲田・皆川
【電話】58-7107【メール】[email protected]
(平日の午前8時30分~午後5時15分)
