文化 行田歴史系譜380

■資料がかたる行田の歴史80
▽武家の年中行事と魚
今回は、郷土博物館で開催中の第38回企画展「魚食のグルメ」で展示中の資料「当家(とうけ)歳中行司(ねんちゅうぎょうじ)」を紹介します。この資料は、忍藩士伊藤家で行われていた年中行事について、行事の手順や必要な品物、掛かる費用などを記録した古文書です。正月や三月の節句(ひな祭り)など現代にも残る行事が多く記されている一方、藩の蔵から俸禄を手形で渡される「御物成頂戴(おんものなりちょうだい)」といった武家ならではの行事もみえます。江戸時代の武士にとって、年中行事を滞りなく行うことは家の格式を保つために大変重要でした。伊藤家は忍藩の用人を務め、天保8(1837)年時点で388石の知行を得ていた上級家臣であり、資料からは行事に応じた膳や祝儀をその都度用意するなど、手間を掛けていたことが読み取れます。
資料の後半では、各行事で必要な品物がリストになっています。魚に注目して見ると、年始の祝儀として用意されたものが特に多く、サンマの干物や塩鰹(しおがつお)、塩鯖(しおさば)、塩鱒(しおます)、塩引鮭(しおびきざけ)など干物と塩蔵品が並びます。当時、日持ちする干物や塩漬けの魚は武家の贈答品としてよく用いられました。また、正月に必要な品物の中に塩鱈(しおだら)が挙げられていますが、これは江戸の文化に影響を受けたものと考えられます。江戸時代後期、壺抜き(腹を裂かずに内臓を取り出すこと)した塩鱈が蝦夷地から江戸へ大量に送られ、正月の縁起物として重宝されるようになりました。特に武家からは、腹を裂いていない=切腹していない魚ということで喜ばれたそうです。縁起を担ぐ江戸の習俗が、忍城下にも届いていたことがうかがえます。
第38回企画展「魚食のグルメ」は、11月24日(月)まで開催しています。
(郷土博物館 岡本夏実)