文化 学芸員が選ぶ 今月のイッピン

■喜多川歌麿
《画本虫(えほんむし)撰(えらみ)》/1788年(天明8年) 市美術館蔵
美しく咲き誇る芥子(けし)の花の周りに集まっているのは、蜻蛉(とんぼ)と蝶です。虫をテーマに、恋心について詠んだ狂歌を2首ずつ載せた狂歌絵本です。
絵師としてまだ知られていなかった喜多川歌麿(生年不詳-1806)が版元蔦屋重三郎のもとで描いた、狂歌絵本の最初のものとして貴重な作品です。絵本の冒頭には、歌麿の師である鳥山石燕(とりやませきえん)(1712-1788)によって歌麿が幼少の頃虫遊びに夢中であったというエピソードも書かれていますが、歌麿のきめ細かい描写からもそのことが伝わってきます。これが木版画であるということを疑うほどに、美麗で繊細な彫摺(ほりすり)も見事です。花の散っている芥子やつぼみなど、花の状態や向きがそれぞれ異なったリズム感のある構図からも、歌麿の意欲や工夫が感じられます。

▽染谷学芸員
「江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ」(上の記事)で展示中です。

問い合わせ:市美術館
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