くらし スポットライト
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- 発行日 :
- 自治体名 : 千葉県松戸市
- 広報紙名 : 広報まつど 2025年10月15日号
■感謝・社会貢献・次世代への想いとともに走る
東京2025デフリンピック・自転車競技(ロード・マウンテンバイク)日本代表
スポーツファーマシスト
薬剤師
早瀨久美(はやせくみ)さん(旧姓・後藤(ごとう))
「松戸には愛着があり、自分を育ててくれた場所です。皆さんにデフリンピックの素晴らしさを知ってもらえるよう、思いっきり走りたいです」と語るのは、11月に開催される東京2025デフリンピックの自転車競技日本代表で、薬剤師でもある早瀨久美さんです。マウンテンバイクでは2度の銅メダルに続き、前回のブラジル大会では銀メダルを獲得。4大会連続出場となる今回は、「競技生活の集大成として自分の限界の先を目指して走ります」と意気込みを語ります。
幼少期を松戸で過ごした早瀨さんは、みやこ幼稚園と筑波大学附属聾(ろう)学校幼稚部を卒園後、相模台小学校・第一中学校へと進学。小学校ではフラッグスインガー(旗やバトンを持ったダンス)部、中学校では軟式テニス部に所属し、県大会にも出場するなど「何にでも興味を持ち、やってみたいと思う子どもでした。耳が聞こえないことで問題が起きることもあったけれど、松戸で友人や先生に恵まれ、楽しく過ごしました。小・中学校で皆勤賞をとったことも、大切な思い出です」と振り返ります。
「私のできることで人の役に立ちたい」と薬剤師への道を志したのは中学生のとき。当時は法律で、聴覚障害者は薬剤師免許を取得できませんでしたが、薬剤師だった母の「大学を出るころには法律も変わっているかもしれないよ」という前向きな言葉から、夢を追いかけて高校卒業後は薬学部へ進学。大学卒業後の平成10年に薬剤師国家試験に合格し、免許を申請しますが、法律は変わっておらず、申請は却下されてしまいます。それでも夢を諦めずに、法律の改正に向けて活動した結果、実に222万人もの署名が集まり、平成13年にはついに法律が改正。早瀨さんは日本で初めて聴覚障害者として薬剤師免許を取得し、「それからは常に〝感謝”・〝社会に貢献”・〝次世代のために”という3つの思いを行動の原点にしています」と語ります。
薬剤師だけでなく、ドーピング防止の専門家であるスポーツファーマシストとしても活動している早瀨さん。日本選手団の医薬品を担当した台北(タイペイ)2009デフリンピックを観戦したことをきっかけに、「何にでも挑戦したい」という子どもの頃からの性格から、自身も自転車競技に打ち込むようになりました。
「デフアスリートは視野が広く、視覚による瞬間的な判断力が優れており、マウンテンバイクは〝目”で刻々と変化する自然のオフロードを見極めて、多彩な走行スキルでコースをクリアしていくところが魅力です。私は競技中のコーナーでは、目の前の路面を見るのではなく、曲がる先を見ることを意識しています。人生もこれと同じで、まずなりたい自分を見つめて、そこへ向かって一歩踏み出すことで、明日の自分が作られていきます」と語る早瀨さん。薬剤師、スポーツファーマシスト、さらにデフアスリートとして第一線で挑戦し続け、後進の人々へ道を切り開いてきました。早瀨さんが2025東京デフリンピックで活躍するその姿は、多くの人たちに感動を与えてくれることでしょう。