健康 長南町認知症サポート医〔上野秀樹先生〕の認知症見立て塾 [第46回]

先月号に引き続き、認知機能障害が認められるようになった時の考え方をお話ししましょう。もの忘れなどの認知機能障害の程度を判定した後に、その原因を検討します。認知機能障害の原因を考える上で大切なのは、ある人の認知機能障害の原因はひとつではないということです。たとえばアルツハイマー型認知症と診断されている人のもの忘れの原因はアルツハイマー型認知症だけではないのです。もの忘れなどがある人がいたら、その原因をすべて見いだすことが重要になります。
原因は2種類に分類されます。改善可能なものと改善が難しいものです。アルツハイマー型認知症や血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などは、脳の神経細胞が機能低下、減少してしまうために生じてくる認知症です。現在の医学では、減少してしまった脳の神経細胞を再生することはできないので、これらは改善が難しい原因になります。神経細胞が減少してしまうことで認知機能障害を生じてくる認知症に関しては、病状を進行させないことが重要になります。これについては、後ほどお話ししましょう。
原因のうちで重要なのは、改善可能なものになります。適切な介入でもの忘れなどの認知機能障害の改善が見込めるからです。順番にご紹介しましょう。
最初に検討すべき改善可能な認知症の原因は、うつ状態です。最初に私がもの忘れ外来を始めたのは、東京都立松沢病院に勤務していた2004年のことでした。以来20年間でたくさんの認知症の人を診療していく中で、うつ状態への支援がとても大切であることに気がつきました。私のもの忘れ外来を受診する人の約8割の人に、ごく軽度から重度まで様々な程度のうつ状態が合併しています。うつ状態では、気分の落ち込みや意欲の減退、食欲の低下、閉じこもりなどが認められることがあります。高齢の方では、気分の落ち込みや意欲の減退などが目立たず、だるさやめまい、動悸やしびれなど不定愁訴が目立つことがあります。こうした訴えの身体的原因が見つからないことが特徴です。また意欲の減退などの症状が目立たず、イライラや焦燥感が強く、攻撃的になったり、落ち着かない言動が目立つ激越型うつ病と呼ばれるタイプのうつ状態が認められることもあります。
うつ状態への対応ですが、どうしてうつ状態になってしまったのかをひもといていきます。うつ状態になるきっかけがあったのかどうか、これまでの生活の様子や出来事、周囲の環境を詳しく聞き取ります。本人を深く理解して、本人の立場に立って考えることが重要です。また、まれに甲状腺機能低下症などの身体疾患でうつ状態となることもあるので、採血検査なども必要になります。身体疾患の状況も含めて、認知症の人を深く理解して、生活の支援に結びつけていきます。認知機能障害が軽度で、うつ状態も軽度であれば、認知行動療法や褒め日記を書くなどの方法が有効です。認知行動療法はカウンセリングのひとつですが、自習することもできる方法です。認知行動療法や褒め日記に関しては稿を改めてご紹介したいと思います。一見してうつ病のように見えないことも多いため、見逃されてしまうことが多い激越型うつ病については、精神科薬物療法が必要になることも多く、精神科がベースのもの忘れ外来の受診をお勧めします。

■上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。
ぜひご参加ください。
日時:5月14日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター

問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-211