文化 歴史資料館 連載四〇六

■鯰絵
幕末の安政二年(一八五五)十月二日、夜10時頃、江戸を大地震が襲いました。世にいう安政(あんせい)の大地震です。震源地は江戸湾北部、マグニチュード7クラス。典型的な首都直下型地震です。隅田川周辺、深川、浅草など強い揺(ゆ)れに見舞われ、大都市江戸に大災害をもたらしました。震災や火災で死者は1万人前後出たとされます。江戸が大規模な地震に見舞われたのは、元禄十六年(一七〇三)の元禄の大地震以来、ほぼ百五十年ぶりのことでした。
この地震直後から江戸で、ある浮世絵が大量に出回ります。鯰(なまず)がこらしめられている「鯰絵(なまずえ)」と呼ばれる絵です。
実は地震は、地下の大鯰が起こしていて、それを抑(おさ)えつけているのが鹿島大明神(かしまだいみょうじん)と信じられていました。つまり、地震の元凶である鯰をこらしめることによって、被害にあった民衆は、少しでも溜飲(りゅういん)を下げることにしたのです。安政の大地震の後、いろいろなバリエーションの鯰絵が出版されました。
この鯰絵は「生捕(いけどり)ました三度の大地震」と題されています。実はこの江戸の安政大地震とほぼ同じくして、信州(長野県善光寺周辺)、小田原と、大きな地震が三回も続きました。この絵は鹿島大明神に捕らえられた信州、江戸、小田原の三匹の鯰が、蒲焼屋(かばやきや)に売られるところ。ただ地震でいい思いをした人たちもいるにはいるので、鹿島大明神のまわりで、まあゆるしてあげて、となだめているのが、地震でもうかった大工(だいく)や左官(さかん)たちです。
菱川師宣記念館で開催中の「おもしろ浮世絵展」では、この鯰絵をはじめ、おもしろい浮世絵をたくさん展示しています。