文化 【特集】「すぎなみビト」音楽家 谷川 賢作(2)

■自然と変化してきた音楽活動。父・谷川俊太郎との思い出
─長く音楽の仕事をしてきた中で、音楽との向き合い方に変化はありますか?
20~30代は映画音楽をはじめ、CM・PR映像の作曲の仕事を数えきれないほどやりました。生演奏を録音するのではなくパソコンを使って曲を作る、いわゆるデスクトップ・ミュージックの波が来ていて、僕もどんどん新しい機材を取り入れました。ピーク時には1曲丸ごとパソコンで作ったんじゃないかな。その頃は演奏活動をほとんどしていません。でも徐々にそういった作曲から離れて、50歳ごろには機材を全部片付けました。長く音楽家をやっていると、人とのつながりが網の目のように広がっていって、いろいろな活動につながっていく。そういった広がりの中で、自分が演奏しながらいろいろな人とコラボレーションする機会が増えていきました。

─そういった仕事をする上では、どんな思いがありましたか?
人と仕事をするということは、どんな仕事もそうだけれど「個人技」と「チームワーク」のせめぎ合いだと思うんです。その中では、ときに個人技を引っ込めなければならない場面も少なくありません。チームワークで音楽を作っていく面白さももちろんあるけれど、父の背中を見て感じていたこともあって。父は世間から“谷川俊太郎”と認められ、すごく谷川俊太郎として生きているな、と。その姿を見てきたことで、自分もできれば父のようになってみたいという思いもあったように感じます。

─今さまざまな場所で、さまざまな形の演奏やコラボレーションをされていますね。
子どもたちとコラボレーションする仕事も自然と増えてきていて、中でもTOKYO FM少年合唱団との継続的なコラボレーションは、今の僕にとって大きな喜びになっています。自分の書いた曲を、自分の伴奏で子どもたちが歌う瞬間は、毎回純粋な感動が生まれ、鳥肌が立ちます。その縁で、谷川俊太郎の詩に僕が曲をつけて子どもたちが歌うテレビ番組がスタートし、自分自身も楽しみながら見ています。

─お父様との演奏活動も数多く行ってこられましたね。
自分で言うのは気恥ずかしいのですが、父とはワン・アンド・オンリーのチームだったと思います。あうんの呼吸で、演奏活動ができていましたから。彼の朗読はそれだけで素晴らしくて、ピアノの音も余計だなと思うことすらありました。でも時々言葉に音楽がつくと、そこだけ色が変わる。そんな瞬間を父は面白がっていましたね。
日常生活においても、父はなんでも面白がる人でした。年をとってから家の前で転ぶことがよくあったのですが、転んだまま動かずにそこにいる。しばらく経って、転んでいる父を見つけた僕が、「大丈夫か?」と心配して駆け寄ると「今、詩が浮かんできた」とか言ってね。車椅子生活で日常が不便になっても、イライラしたり激高したりするようなことは一切なかったです。そんな父と共に活動したことは「いい思い出」。この一言に尽きます。

■地元・阿佐谷で続くジャズストリートへの思い
─阿佐谷ジャズストリートにはどんな思いがありますか?
阿佐谷というまちに“ジャズストリート”が根付いていることは、とてもありがたいこと。今年で31回目ということで、よくここまで続けてきてくださったと、実行委員・ボランティアの皆さんには感謝の気持ちが大きいです。ステージが終わった翌日に阿佐谷を歩いていると「昨日見にいったよ!」など、まちの人に声をかけてもらえることもある。それは地元のイベントならではのうれしさですね。

─今年はどんなステージになるのか、ぜひ教えてください!
今年で5回目の出演。昨年まではJazz for kids(親子で楽しむジャズストリート)の昼間のステージが続きましたが、今年は久しぶりに夜のステージ。久遠キリスト教会で、僕のユニット「もこもこ」に三重県四日市市で子どもの本専門店を営む増田喜昭さんをゲストに迎えて、ジャズと詩のコラボレーションをお届けします。「もういい加減、追悼はやめよう」ということと、「杉並人」としての谷川俊太郎の言葉をテーマに、遊び心満載のステージを作ろうとプログラムを練っている最中。子どもから大人までいろいろな人に来てほしいし、谷川俊太郎の詩の面白さを追悼ではなく「発見」してほしいです。息子の僕でさえ、いまだ発見の途上なくらい本当にたくさんの詩があるので。音楽の面白さ・詩の面白さをどちらも発見して楽しめる。そんなステージを、僕自身もとても楽しみにしています。

■谷川さんも出演! 阿佐谷ジャズストリート
けやき並木がジャズに染まる2日間
日程:10月24日(金)・25日(土)
今年で31回目の阿佐谷ジャズストリート。ディキシーバンドがまちを練り歩き、ジャズの音色をお届けします。詳細は、阿佐谷ジャズストリート(右2次元コード)をご覧ください。
※2次元コードは本紙参照
会場・費用:
・パブリック会場…1ステージ2000~4000円(前売り)ほか
・ストリート会場(駅前広場ほか)…無料
・バラエティ会場(ライブハウス・カフェほか)…店舗によって異なる
チケット販売場所:阿佐谷ジャズストリートHP、区役所1階「コミュかるショップ」ほか

問合せ:阿佐谷ジャズストリート実行委員会
【電話】050-3529-8700(月~金曜日午前10時~午後5時)

■YouTubeで配信中!「すぎなみビトMOVIE」
すぎなみビト「谷川賢作さん」のインタビュー動画を、右2次元コードからご覧いただけます。
※2次元コードは本紙参照

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