くらし [特集]情報を文字で伝える要約筆記(1)
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- 自治体名 : 神奈川県平塚市
- 広報紙名 : 広報ひらつか 令和7年11月第3金曜日号
聞こえない人・聞こえにくい人は、手話・筆談・発声などのコミュニケーション手段を組み合わせて、または使い分けて情報を得ています。今号では、その手段の一つである「要約筆記」を紹介します。
◆意思疎通をサポート
聴覚障がいと一口に言っても、聞こえ方は人によってさまざまです。手話を使ったコミュニケーションもありますが、全ての方が手話を理解し、使えるわけではありません。市障がい福祉課の設置手話通訳者である武居文乃さんは、「人生の途中で聞こえない・聞こえにくい状態になった方もいます。自身の状態を受け入れるのに時間がかかる中で、一から手話を覚えるのは本当に大変なことです」と話します。その中で、使い慣れた日本語の「文字」で音声情報を伝える方法として生まれたのが「要約筆記」です。
◇利用できる市の制度
市には手話通訳者・要約筆記者を派遣する「意思疎通支援事業」があります。市が主催・共催する講座や、医療機関などで利用できる制度です。「手話では専門用語が伝えられなかったり、筆談では箇条書きなどになり会話にならなかったり、情報が欠けてしまう部分があるんです」と武居さん。「手話は使えるけれど、『言葉(漢字)』として知りたいと、要約筆記を利用する方もいます」と続けます。要約筆記者の派遣件数はコロナ禍でいったん減ったものの、令和3年度の46件から6年度には78件に増えました。
◇障がい者の意思決定
個人からの申請で多い派遣は医療機関での利用です。筆談や音声アプリで受診する方もいますが、家族が付き添って受診する方もいます。その場合、医師と家族とで話が完結し、本人は置いてけぼり……というケースがあるそうです。「本人が直接、相手の話を理解して、意思決定できることが大切なんです。これは障がいに関係なく当たり前の権利ですよね」と武居さん。「医療機関での利用はその一例。要約筆記が一つの方法として、広まったらと思います。家族の負担軽減にもつながるといいですね」と補足します。
ただ市の支援には派遣先や対象者に限りがあります。「全ての事業所などで、合理的配慮の考え方に基づき、支援の導入が進むこと。これが私たちが見据える支援のあり方です」。
◆派遣支援事業の対象と利用方法
「聴覚障害」「音声機能障害・言語機能障害」と書かれた身体障害者手帳を持っている市民らが対象です。詳しくは、市ウェブ(右の2次元コード)をご覧ください。※二次元コードは本紙をご覧下さい。
応募:土・日曜日と祝日を除く希望日の7日前までに、市ウェブにある申込書を、ファクスまたは直接、本館1階の障がい福祉課【電話】21-1213へ。(e)でも申し込めます。
◆「聞こえ」には違いがある
市聴覚障害者協会の理事・加藤文男さんと、市の講座などでよく要約筆記を利用する向井昭彦さんに、自身の「聞こえ」や要約筆記が役立つ機会などを聞きました。
(県中途失聴・難聴者協会が監修した「聴覚障害とマスク」を参考に平塚市広報課で作成)
(1)感音性難聴…音の大小に関わらず、何を言っているのか分からない。音がゆがんで聞こえる。
(2)伝音性難聴…鼓膜などが障害されることで、音が伝わりにくくなったり、特定の音が聞こえにくくなったりする。音を大きくすれば伝わるときもあるが、全てを聞き取れる訳ではない。
(3)混合性難聴…(1)(2)を併せ持ち、音が入りづらく、入ったとしても不明瞭のため、耳で聞くことが非常に難しい。
◆理解を広める 社会とつながる
市聴覚障害者協会では、講演会で要約筆記を利用しています。6年前に向井さんが、要約筆記の派遣を利用できると教えてくれてからのことです。
例えば私の場合、一対一の会話は手話で確認できますが、講演会だと、手話だけで理解できるのは約80パーセント。残りの20パーセントは読み取れないので、全体投影されているパソコン要約筆記を確認します。手話で表現できない用語も文字だと理解しやすいです。要約筆記があることで、手話の見逃しや手話で表現できない意味をカバーできるのは助かりますね。普段から手話を使う協会の方も講演会では、要約筆記を見ている方が多いです。
私自身は、興味のあるイベントなどで手話通訳の派遣を依頼することが多いです。私の聞こえは「感音性難聴」に近く、発声は苦手です。口を大きく開けてゆっくり話したり、正面から伝えたりしてもらうと分かる部分もありますが、人によっては分かりにくいこともあるので、メモでの筆談が一番助かります。手話や筆談、音声を文字変換するアプリなど、コミュニケーションの方法は人や場所によってさまざまです。聞こえないことは相手に伝わりにくいです。聞こえないことへの理解や、手話の他に筆談やアプリ、要約筆記という手段があることが、もっと広く知ってもらえるといいですね。
要約筆記を知ったのは約40年前で、きっかけは読話・発音の訓練教室で知り合った方に誘われて参加した神奈川難聴者の会(現在の県中途失聴・難聴者協会)の例会でした。その日から要約筆記の支援で、同会の方との交流が始まり、現在に至ります。
当時は片言の手話を使い、声を出しながらのコミュケーションが中心で、相手の口の動きを見ながら想像力を働かせていました。私の現在の聞こえは目を閉じて言葉を聞くと、子音を除いた声が耳に入ってくる感じです。しかし補聴器を付けていても体調次第で全く聞こえないことも。そんな時に要約筆記や筆談は助かりますね。特に要約筆記は要点を分かりやすく伝えてくれるので、理解度が高まります。講座などで月2・3回利用していますが、慣れ親しんだ文字で情報を頭に取り込めるし、メモを取る余裕があるのが良いです。手話だけだと、一度目を離すと流れが分からなくなるし、長く見続けると目が疲れてしまうのです。
県中途失聴・難聴者協会では、要約筆記のおかげで再び人の輪に入れたという喜びの声を伺います。難聴で情報が入りにくくなり脳への刺激が減ると、認知機能が低下しやすいという報告があります。聞こえないからと社会参加を諦めるのではなく、要約筆記という支援を積極的に利用してほしいと願っています。
