くらし 思い継ぐ 八幡山の洋館(1)

県内でも数少なく、市内では唯一の明治時代の洋風建造物・旧横浜ゴム平塚製造所記念館(浅間町1-1)。「八幡山の洋館」として多くの方に親しまれている同館の歴史を振り返り、魅力を紹介します。

◆思いが生きている施設
開館16年目を迎えた、旧横浜ゴム平塚製造所記念館。同館は、八幡山の洋館を活(い)かす会と、平塚ビルメンテナンス業協同組合が管理運営をしています。毎月約1300人が訪れ、年間で約1万5000人が利用しています。
「八幡山の洋館は『みんなの思いが生きている施設』です」と語る、同館の袴田明典館長。「平成16年に横浜ゴムから市に寄贈され、現在の場所に移築されました。当時、できるだけ明治時代の姿で移築保存しようとした方々の思いを、継いでいきたいです」と話します。
鈴木美都子副館長は「開館当初は施設の運用方法も決まっていませんでした。公共施設である当館をどのように運用していくのか、試行錯誤の連続でした」と振り返ります。「当館を芸術発信の場、安らぎの場にしたいという思いが根底にあります。『市民の皆さんがここで何をやりたいのか』という視点を大切にしています」

◇遊館日の広がり
「普段着で気軽に音楽を聴きに来られる場所」を目指して始まったのが、遊館日(右下囲み(2))。毎月第3水曜日に開かれています。「出演される方は建物の造りだけでなく、観客の皆さんがつくる会場の雰囲気も喜んでくれます」と鈴木副館長はほほ笑みます。
4年前から演奏のダイジェスト動画を公開するようにしたところ、出演の応募がさらに増えたそうです。「洋館でどんなことをしているのかを知ってもらえて、出演される方だけでなく来館される方も増えてきました。出演される方が有名かどうかに関係なく、毎月楽しみに来てくれる方が多いです」と袴田館長。「開館当初に目指していた洋館の姿になってきたと感じています。洋館の良さをもっと知ってもらえるように、初心を忘れずに挑戦を続けていきたいです」と意気込みます。

◇平和の大切さを発信
袴田館長は「当館は海軍火薬廠の中にあった施設です。戦争につながる歴史があったからこそ、二度と戦争を起こさないという平和へのメッセージを発信する使命があると感じています」と力を込めます。同館では来館者への声掛けや、遊館日の冒頭に同館の歴史を説明しているそう。「平塚の戦災を知っている方は多いですが、当館に戦争につながる歴史があると知っている方は少ないです。歴史を知り、当館が平和や文化の施設として活用されていることに、涙を流す方もいます」と続けます。また、市核兵器廃絶平和都市宣言の節目である今年は、隣接する平和慰霊塔が新しくなり、同館の花壇には『アンネのバラ』が植えられました。「平和への思いを忘れることなく大切にし、伝え続けたいと思っています」と語ります。
同館は平和や文化を発信する場だけでなく、学習・教育の場としての役割も期待されています。実際に小学生が授業で見学に来たり、中学生が夏休みの宿題のために、話を聞きに来たりすることがあります。「ぜひ平和学習の場として使ってもらえたらうれしいですね。洋館の歴史や文化財としての価値を次世代の子どもたちにも伝えられればと思っています」と鈴木副館長は未来を見据えます。

◇心休まる場所に
来館者一人一人と、地道な対話を通して、メッセージを発信し続けている同館。世代を超えて来館してもらうために、施設をきれいに保ち、丁寧な案内を心がけているそうです。「いつまでも心休まる場所として皆さんに寄り添う存在であり続けたいです。これからも遊館日やさまざまなイベントがありますので、気軽にお立ち寄りください」と袴田館長は呼び掛けます。