- 発行日 :
- 自治体名 : 山梨県中央市
- 広報紙名 : 広報ちゅうおう 2025年11月号
■脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつぜ)について
山梨大学医学部附属病院 救急部 特任講師(整形外科) 辰野力人
年齢を重ねると、転んだだけで骨折してしまうことがあります。これは「脆弱性骨折」と呼ばれ、骨の強さが低下しているために起こる骨折です。若い人なら受け流せる軽い衝撃でも、高齢になり骨が脆(もろ)くなっていると骨折してしまいます。脆弱性骨折は日常生活に大きな影響を与え、要介護の原因にもなります。特に多いのは、股関節(大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)・大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ))、背骨(椎体骨折(ついたいこっせつ))、手首(橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ))、肩関節(上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ))です。
最近注目されているのが「脆弱性骨盤輪骨折」です。これは転倒や強い外傷がなくても、骨盤の骨が折れてしまう状態で、第5の脆弱性骨折と言われています。症状は背骨や股関節の骨折と似ているため、背骨や股関節のレントゲン検査では異常が見つからず、「腰やお尻の痛みがなかなか治らない」という形で診断が遅れることもあります。診断にはCTやMRIが有用です。安静による保存療法で症状が改善することもありますが、骨折のタイプによっては手術が必要になることがあります。
脆弱性骨折の背景には「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」があります。骨粗鬆症は加齢や女性ホルモンの低下、運動不足、栄養の偏りなどで骨密度の減少、骨質の悪化により骨がスカスカになる病気です。日本では患者数が女性1,200万人、男性400万人とも言われていますが、その多くが治療を受けていません(女性11%、男性2%)。実際、骨折をきっかけに初めて骨粗鬆症と診断される人も少なくありません。
ひとたび骨折が起きてしまうと、入院や手術が必要になったり、歩行が難しくなったりするなど、生活の質が大きく損なわれます。そのため「骨折してから治療」では遅く、骨折を起こさないように「予防」することが重要です。カルシウムやビタミンDを意識した食事、適度な日光浴、筋力を保つ運動が基本になります。特にスクワットやウォーキングなど下肢の運動は、骨を強くするだけでなく、バランス能力を高めて転倒予防にも役立ちます。また、室内の段差をなくす、手すりを設置する、滑りにくい靴を使用するといった住環境の工夫も重要です。骨粗鬆症かどうかは、骨密度検査でわかります。骨粗鬆症と診断された場合には、薬による治療で骨折のリスクを減らすことができます。
脆弱性骨折は「ちょっとした転倒」がきっかけで起こり、その後の生活の質を大きく下げる恐れがあります。しかし、生活習慣の改善や早期の検査・治療によって十分に予防できる病気でもあります。
人生100年時代、いつまでも健康で自立して暮らせるようにぜひこの機会に「自分の骨の健康」について考えてみてはいかがでしょうか。
企画 一般財団法人 里仁会
