- 発行日 :
- 自治体名 : 静岡県長泉町
- 広報紙名 : 広報ながいずみ 令和8年1月号
◆「井上靖像」
町長:令和5年、井上靖文学館開館50周年記念に際して、お忙しい中、お引き受け頂いた「井上靖像」の制作エピソードを教えてください。
堤:本当に難しかったです。井上先生の小説も全部読みました。本の中に色々な人物像が山ほど出て来て、『蒼(あお)き狼(おおかみ)』のように勇ましいものや『天平(てんぴょう)の甍(いらか)』、『しろばんば』など、頭の中で混乱しました。
イメージを頼りに完璧に作って、夕方に「できた」と思っていても、翌朝見ると、全然イメージが違って、朝の光で見ると違うんですよね。朝の光は、物事を客観的にするんです。醒めるというのでしょうか。「あれ、違うぞ」と思って壊して、また違うイメージで作って、完成して、また壊すというのを、11~12回、やりました。
最後に、あの『しろばんば』の本当に純粋な、人間性を表現しようと普通の感じで作って納得したのが、あの作品なんですよ。
除幕式の時に、井上靖先生のご長男に、「機嫌のいいときの井上の顔です」とおっしゃっていただきました。また、除幕式には『しろばんば』の主人公・洪作の叔母「さき子」という先生の役をやっていた縁で、女優の故山本陽子さんも来てくれました。
◆首相官邸「HOTARU」
町長:先生の作品が首相官邸に設置されていましたね。
堤:日展に、当時の首相の小泉純一郎さんが見に来られたことがありました。
小泉首相が「何か飾りたいな」と思ったんですかね。それから官邸に何人かの作品が飾られました。
これがその作品ですが、官邸の中に入って写真が撮れないので、交流のあった元法務大臣が写真を撮ってくれました。嬉しかったです。新しい内閣が発足すると、赤絨毯の階段に大臣が並ぶ光景をテレビなどで見ると思いますが、あの階段の横に10年間飾ってありました。この像はずっと新しい内閣を見ていました。(笑)
◆伊勢市神宮美術館「夢の刻(とき)(II)」
町長:昨年、伊勢市の神宮美術館で開かれた特別展に先生の作品が展示され、大変誇らしく思いました。
堤:伊勢市の神宮美術館では、春の宮中歌会始めの御題をテーマにした作品の特別展をしています。御題が「夢」で、学芸員の方が私の「夢の刻」という作品を探し出してくれたんですね。私が41歳、大変苦しかったときの作品で、「一心に制作する時間が他のことを何も考えなくてよい『夢の刻』だった」ことを思い出します。特に気に入っている作品で、家の庭の正面に設置していました。
特別展では日本を代表する作家の彫刻や絵画33点が展示され、その一つに選ばれたことは大変光栄でした。大きな部屋の真ん中に1つだけ飾ってもらいました。多くの皆さんに見ていただけて嬉しかったですし、日展関係者も喜んでくれました。
◆「八代亜紀像」
町長:故八代亜紀さんの像も制作されたんですよね。
堤:故八代さんの所属事務所スタッフと交流があり、電話で「(銅像)やってくれないか」というので、それは「もちろんやります」と答えました。
同時に鮎壺公園の「ETERNAL TIME」と二つ一緒にやるので、土日がなくなりました。
そうしたら、腱鞘炎になっちゃって、まだ痛いです。(笑)
制作にあたり、事務所の社長に頼んで、本人が着たドレスを借りてアトリエに飾りました。♪雨々ふれふれって「雨の慕情」を歌ってる姿をイメージしましたが、八代さんをしのぶことができていますかね。
彫刻の設置場所は、故八代さんの墓所がある品川区の目黒不動の近く、「臥龍山 安養院」で、そこのお寺に建っています。歌手になりたい人や、ファンがお花を持って、御参りに来るみたいです。
町長:先ほども話をしましたが、過去に「次代へ継ぐ豊かな人間性をはぐくむ文化のまちづくり」を掲げ、個性ある新しい町民文化の誕生を目指しました。
また、先生には町公民館でも文化を育てる環境づくりとして、彫刻(彫塑(ちょうそ))教室の講師をお願いし、蒼土会(そうどかい)を立ち上げるまで文化振興にご協力いただきました。
そして町内の公共施設をはじめ、街中に多くの作品を残すことができてきました。
堤:そうですね。社会教育の青年講座で彫刻教室をすぐ始めました。昭和63年頃でしょうか。池田町長もまだ役場職員で、一緒に机を運びましたよね。そして「美術展」を創ったんですよね。
それから、35年ぐらいやってるのかな。こっちに来てから本当に、いろんなことがありました。
◆「ETERNAL TIME(エターナルタイム)」
町長:3月にオープンした町内の最新作が鮎壺公園の像ですよね。
堤:町内に彫刻も増えて、文化のまちづくりが、結構うまくいったと思います。池田町長になってから、さらにレベルアップしたのではないのでしょうか。池田町長は、バランスがよく、道路や公園をつくるとか、色々やっていますよね。もちろん文化もあるけれども、僕が35年前に来たときと比べると、素晴らしいまちに変わっていますよ。今がもう僕は最高じゃないかなと思っています。それでこの間、鮎壺公園の彫刻を作る時に、「この状態がずっと続いてくれないかな」と思って、「エターナルタイム(永遠の時間)この時が永遠に続くように」という像を作りました。
町長:私は彫刻を眺めることで、自分を見つめ直す時間になると思っています。どのように作品に触れ、接すると良いですか。
堤:「美術品は敷居が高い」と思われている方は多いと思いますが、特別なことは必要ありません。気軽に楽しんで欲しいですね。
ただ、その作品の時代背景、作者の経歴を調べておくと、より作品の見方、味わい方が変わると思います。心で向き合えば、絵画や工芸、書、何でもいいと思うんです。
町長:文化は「心のゆとり」「心の豊かさ」と言えるのではないのでしょうか。特に彫刻は、公共空間を彩り、魅力ある景観をつくる力がありますよね。住民にとっても町への誇りとなり、訪れる方にも町の魅力を伝えられますよね。
私自身も多くの美術品に触れたいと思いますし、町民の皆さんが身近に文化芸術に触れられるようなまちづくりに努めます。先生、今日はありがとうございました。
◆町内で観ることができる作品
文化センター「愛のメロディ」/長泉中学校「天駆ける」/駿河平自然公園「L’histoire des forêts」「水鏡」/荻素橋親柱「歓・喜・慶・悦を表現した彫刻」/いずみの郷「碧空」「新しいページ」/コミュニティながいずみ「泉の精」「洪作少年」/ウェルピアながいずみ「富嶽讃歌(富士に舞う)」「未来へ」/パルながいずみ「ふれあい」/いずみ公園「米山梅吉翁像」/福祉会館内「陶壁〈泉の精〉」「銅像〈パウゼ〉」他
◆主な作品
静岡駅前「徳川家康公・竹千代君像」/島田市蓬莱橋「勝海舟像」/沼津駅北口「江原素六翁像」/中央大学「テミス像」/築地川銀座公園「名犬チロリ像」/品川区「八代亜紀像」/袋井エコパスタジアム「ラグビーワールドカップモニュメント」/イラク大使館「ショクランの種」他
問合せ:情報戦略室
【電話】918-2015
