- 発行日 :
- 自治体名 : 愛知県新城市
- 広報紙名 : 広報しんしろ ほのか 令和7年5月号
◇1号トンネル(642m)工事現場
1号トンネルは鳳来峡ICから東栄方面へ走ると最初に現れるトンネルです。令和4年6月に貫通し、現在は仕上げ工事となる、電気と消防設備(※3)などの工事をしていました。
・1回の発破で約1m掘り進める
この山の地層は主に岩盤だったため、ダイナマイトを利用し、岩を砕きながら1日数メートルのペースで堀り進めたそうです。
掘り進んだ時、予定よりもズレて掘削してしまうことはあるのか聞いたところ、そのような心配はないとのことです。
今の掘削技術は精度が高く、数ミリ単位の精度で堀り進めます。その方法は、トンネルを設計する段階で、平面位置と高さの座標を決定します。トンネル抗外に設けた基準点から掘り進めるのに合わせ、坑内にも基準点を新たに設け、設計時の座標を確認しながら掘り進めます。この方法により、必ず計画通りになります。ただし、答え合わせは貫通するタイミングのみですので、最後まで緊張感のある工事となります。
※3)トンネルの長さと交通量の2条件により、消火栓か消火器の設置の義務が変わります。1号トンネルは約50mごとに消火器を設置します。
・危険と隣り合わせの工事
トンネル工事というと、地盤が柔らかい方が掘りやすく簡単なものだと思っていましたが、実は逆でした。地盤が柔らかいと、坑内が崩れやすく、危険が高まるとのことです。
その意味で、静岡県と長野県を跨ぐ約5kmの青崩峠トンネル(仮称)の工事は、「国内屈指の難工事」と言われていました。トンネルのすぐ近くを大断層の中央構造線が走っていることから、断層運動の影響を受け続け、地盤は非常に脆く工事を断念した歴史もあります。しかし、技術向上を受け2019年から現在のルートでの工事を開始しました。そして2023年5月、ついに貫通しました。
・トンネル内の反射板は進化
トンネル内を歩くと、側面に白い塗料が塗られていることに気が付きました。これは反射板の役割をしているものだと教えていただきました。
以前はタイルを反射板として利用していましたが、経年劣化によりタイルがはがれるため、現在は塗料でその役割を果たしているとのことです。細部に至るまで長年のノウハウの蓄積が、今に生かされていることを実感できた瞬間です。
◇多くの人々に支えられ完成する
この工事区間だけでも多くの技術者や職人が携わっていました。
山肌を切り出して法面を作る業者、橋梁を架ける業者、重機を操る業者、整地する業者、舗装する業者、発破火薬を扱う業者、トンネルを掘削する業者、電気設備業者、警備業者など多くの業種が、それぞれの得意分野に取り組み、1つの道路が完成します。どれか1つが欠けても完成することはできないプロジェクトです。
◇全国でインフラの老朽化が問題視される中で
全国で既存インフラの老朽化や職人・技術者不足が問題になっています。何だか少し先が暗い気持ちになってしまいます。
今回の取材で現地に入るまで私たちは、大勢のベテランが現場で働いているものだと思い込んでいました。しかし、今回の現場では、若い技術者や国土交通省職員が仕事に取り組んでいました。
今回の取材に対応してくれた皆さんの表情や言葉から、情熱と誇りが滲み出ていました。これはどこから湧き出てくるのか、取材を通して確信しました。
ボルトの締め方1つをとっても、その日の気温などを確認し、1本1本丁寧に締めます。丁寧な作業の積み上げが自信につながっています。
取材で主に説明していただいた田中さんから、「目の前にある課題を皆の力で何としても解決して、工事を前に進めるところにやりがある」と聞いた時、技術者魂を感じました。
さらに、国土交通省の喜畑さんから、「工事現場は安全が第一。少しの気の緩みが大きな事故につながる。その緊張感の中で、工事を進めないといけないが、それを乗り越え道路が完成した時の感動は、計り知れない。現在、土木業界全体で人手不足ですが、若い方々にも、この感動を味わっていただきたい」と語ってくれました。
◇最後は人が品質を維持する
世間では、AIや無人運転などが話題になっています。危険な仕事や大変な仕事は、機械に任せた方が安心で楽かもしれません。しかし、革新的技術が出て来ても、それを活用するのは人です。また、各現場には地形など様々な要因があります。今までの経験を踏まえ、その現場に最適な工法を導き、品質を担保するには、最後は人であると感じました。
・完成後も終わりはない
私たちはどうしても大きなものを造る時、建設の方に注目しがちです。完成がゴールではなく、安全・快適な道路を維持するため保守作業も抜かりなく行います。
先に開通した鳳来峡IC以南の区間では、既に供用開始から5年以上経過し、定期点検や必要に応じてメンテナンス作業も実施されています。私たちが知らないところで、しっかりと保守されているのです。
さらに全国の道路で異常箇所を見つけたら電話で通報を受け付ける#9910の運用に加え、令和6年3月からSNSアプリでの運用を国は開始しました。地域を繋ぐ大切な道路は、様々な取り組みにより、建設後も守られていきます。
自動車で走るとあっという間に通過する道路も、長い年月をかけて造ります。私たちの生活が便利なのは、その陰で大勢の技術者と職人によって支えられています。
■編集後記
今回、気づきの1つに「みち」とは「道」と「路」が結びつき「道路」になる。三遠南信自動車道の全面開通が待ち遠しい昨今。寒さ厳しい中での取材は記事にもあるように「発見」の連続でした。
安心安全をどう担保していくか、道路は出来上がってからも「みち」を維持していくための作業は続く。イノベーションの陰ひなたにいるのは、やはり人だということが分かりました。
問合せ:秘書人事課
【電話】23-7623
この記事は市民編集委員が取材・編集しました