くらし とよあけ 花マルシェ コラム

節気は小満、あたりはすっかり夏の景色になりました。この時季、野山や森林公園を歩いていると、伸びた蔓(つる)の先に船のスクリューを小さくしたような白い小花が咲いているのをよく見かけます。「それってテイカカズラのことじゃない?」そう、テイカカズラですね。
テイカカズラはキョウチクトウ科テイカカズラ属に分類され、朝鮮半島および本州南部から西日本にかけて分布するつる性植物です。日本原産種なので歴史への登場も早く、『古事記』上巻に「為 天之眞拆而手草結天香山之小竹葉而(天(あま)のマサキをカズラと為(し)て、天の香山(かやま)の小竹葉(ささば)を手草(たくさ)に結(ゆ)ひて)」と〝マサキのカズラ〞と表現されています。「へぇ〜古事記の上巻、これまた古いね〜!」「ほんとですわね、で、これってどういう内容ですの?」これは、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が須佐之男命(すさのおのみこと)の横暴から逃れて天の岩屋戸(いわやと)にお隠れになり、高天原(たかまがはら)が暗闇になってしまったので、天照大御神を葦原中国(あしはらのなかつのくに)に引き戻そうとしているシーンです。…天宇受売(あめのうずめ)はテイカカズラを髪に纏(まと)い笹の葉をブーケに束ね…いわゆるおかしなコスプレをして場を賑(にぎ)わせ、それを不思議に思い岩戸を開いた天照大御神の手を引き、天照(あまてらす)ご帰還(きかん)作戦が成功します。
ところで、このテイカカズラという呼び名は、『古事記』がそうでないように、鎌倉時代以降に付けられたもののようです。「ほう、そうかね?」
「だいたい〝テイカ〞って何よ?」はは、テイカってちょっと変わった音(おん)ですよね。実は、このテイカは「定家(ていか)」のことでして、つまり藤原定家(ふじわらのさだいえ)の名をとって名付けられたといわれています。「また何で定家なワケ?」はい、これには一つの逸話()があって、「式子内親王(しょくしないしんのう)と深い契りを結んだ定家が、二人の死後もテイカカズラの姿になって、式子内親王の墓に絡みついて離れない」というものです。この逸話は能『定家』として現代も演じられています。
見た目は、やや南方系種のイメージだけど、実は日本の歴史に深く根差したテイカカズラの花、今が最盛期なのでお時間があれば、ぜひ一度見に行ってくださいね。ただしキョウチクトウ科の例にもれず、毒性があるので枝葉の折れ目から出る乳液には触らないようにしましょう!

執筆/愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦

※写真は広報紙30ページをご覧ください。