- 発行日 :
- 自治体名 : 京都府福知山市
- 広報紙名 : 広報ふくちやま 2025年7月号
─今じゃなくてもいいと思っていませんか?─
がんは、早期に発見できれば治療の選択肢が広がりますが、自覚症状がないまま進行することも多いです。
今月号では、小橋建太さんの闘病の体験と、がん検診への思いを紹介します。
チャンピオンにもがんは容赦なかった
■“鉄人”小橋、見えない敵との闘いが始まった
○健康診断で告げられた「絶対王者」の身体の異変
小橋建太(こばしけんた)さんは高校卒業後、会社員を経て全日本プロレスに入門し、1990年代から2000年代にかけて一時代を築きました。03年には、GHCヘビー級王座を奪取し、13度の防衛に成功。数々の名勝負を繰り広げ、「鉄人」「絶対王者」と称されるなど、プロレス界をけん引してきました。そして、06年6月、39歳のときには、GHCタッグ王座も獲得。現役生活の絶頂期にありました。
「身体も万全で、絶好調だと思っていました」
そんな中、小橋さんの体に〝異変〟が見つかります。所属団体が導入していた定期健康診断で、エコー検査を受けたときのことです。検査技師たちの表情が急に変わり、「右の腎臓(じんぞう)に腫瘍があります。がんの可能性もあるので、再検査を受けてください」と伝えられました。
「自覚症状なんて何もありませんでした。2週間前はチャンピオンになったばかりでしたから、がんだなんて全く信じられませんでした」
○病名は腎臓(じんぞう)がん このまま死んでしまうのか
5日後、小橋さんは病院に向かいました。診察室で「僕はがんなんですか」と尋ねると、医師は静かに、しかしはっきりと答えました。
「はい。腎臓がんです」
小橋さんは、頭の中が真っ白になったと言います。
「絶頂から、一気に真っ逆さまに落ちていくような感覚でした。『もうプロレスはできないかもしれない』『このまま死んでしまうかもしれない』という思いが一気に押し寄せてきました」
医師は説明を続けます。
「腎臓や肝臓(かんぞう)、膵臓(すいぞう)などは〝沈黙の臓器〟と呼ばれています。症状が出たときには、すでにかなり進行していることが多いのです」
○まだ39歳「復帰は無謀」目の前が真っ暗に
手術を控えたある日、小橋さんは主治医からこう告げられました。
「治療が終わっても、プロレスに復帰しないでください。無謀です。腎臓がんの手術を受けて現役に戻ったアスリートは、私の知る限りいません。プロレスでなくても、生きていれば何でもできます」
小橋さんの人生は、プロレスと共にありました。その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になったと言います。
「僕はまだ39歳。現役の最盛期でしたし、リングに立つことこそが『生きること』。やりたい試合もたくさん控えていたので、お医者さんの言葉は本当につらかったです」
■もし、あのとき検診を受けていなかったら─
みんなも検診を受けて、笑顔で過ごして
○応援してくれる人がいる もう一度リングへ立ちたい
06年7月、片方の腎臓を摘出する手術は無事終わりましたが、退院後の生活では気持ちが沈んでいたと言います。
「周りの人からは、顔から笑顔が消えていたと言われました。自分では気づかないうちに、心が病んでいたんだと思います」
そんな小橋さんを支えたのは、そばにいた人たちの存在でした。家族、長年の友人、医療スタッフ、そしてファン。多くの人が復帰を信じ、励まし続けてくれたと言います。失意の中、小橋さんは少しずつ前を向き始めました。
「一度だけでいい。またリングに立って試合がしたい」
身体は細くなり、筋力も落ちていました。腎臓への負担を避けるために食事にも気を配る必要があり、さらに両膝の手術も控えていました。それでも、小橋さんはあきらめません。少しずつトレーニングを重ね、地道に身体をつくり直していきます。
「身体がしぼんでいく中でまたつくり直すというのは、言葉にできないほど大変でした。定期検査では、医師と復帰について何度も話し合いました」
06年12月、小橋さんは、日本武道館で行われた大会に登場し、ファンにこう宣言します。
「このリングに、必ず帰ってきます」
その言葉どおり、翌年12月に奇跡の復帰を果たしました。ときを経て今、小橋さんはこう語ります。
「人生の全てをかけてリングに上がりました。もうプロレスに悔いはないです」
○がんは誰でもなりうる 大切な人のために検診を
小橋さんは、検診の大切さを今一度訴えます。
「もしあのとき検診を受けていなかったら、多分手遅れだったと思います。『忙しい』『自分は大丈夫』と思う気持ちもわかります。でも、検診を受けて何もなければ安心できますし、何かあっても早く見つかれば治療できます。自分のために、家族や友人のために、検診を受けてください。生きていることが大切です。2人に1人ががんになり、そのうち3人に1人が命を落とすと言われています。早期発見、早期治療して、みんなで笑顔で過ごしてください」
■小橋建太さんより ─今、がんと向き合っている人へ─
がんと闘っているあなたへ
僕もかつて、がんと向き合い、立ち上がる苦しさ、前が見えなくなる不安を経験しました。
だけど、僕は諦めませんでした。諦めなければ終わりません。何度倒れても、立ち上がればいい。一歩ずつでいいので、前へ進みましょう。
今日を乗り越えたあなたは既に強い!あなたの頑張りは、誰かの勇気になっています。
だから、信じてほしい。あなたは1人じゃない。まだまだ青春は長く、闘いは続きます。勝負はこれからだ!
熱き魂を握りこぶしに込めて。いくぞ─!!
→ぜひ動画でもご覧ください
※詳しくは本紙をご覧ください。