- 発行日 :
- 自治体名 : 京都府京田辺市
- 広報紙名 : ほっと京たなべ 令和8年2月号(No.957)
■考古学者に聞いてみた!
奈良文化財研究所 都城発掘調査部 考古第一研究室 室長 和田一之輔(かずのすけ)さん(47)
平城宮跡をはじめ、世界遺産の興福寺や薬師寺の発掘調査にも携わっています。
〔地下水によって守られた1300年前の奇跡の盾を見にきて〕
市は、市文化財指定制度50周年を記念して、市指定第1号の大住隼人舞にちなんで、平城宮跡から出土した実物の「隼人の盾」(8世紀前半ごろ)を展示するほか、同盾をテーマとした講演会を開きます。今回、隼人の盾への知見が深い和田さんに話を伺いました。
◇盾が見つかった時の状況は
私が生まれる前の昭和38年の調査で、平城宮跡の西南の隅で発掘されました。実は、「盾」として埋まっていたのではなく、井戸の木枠として再利用された状態でした。通常、木製の遺物は腐敗して土の中で朽ちてしまいますが、低温の地下水に浸かっていたことで、奇跡的に残存していました。発見された井戸枠は2段組みになっており、下の段に使われていた8枚の盾は良好な状態で、特徴的な文様が確認できるほどでした。
◇隼人の盾の特徴は
天然の顔料と墨を使い、赤・白・黒色で渦巻文と三角文様を描いた独特の文様が特徴です。この文様の意味については、文献には書かれていませんが、おそらく魔除けの役目があったと思われます。配色パターンは2種類あり、赤と黒の配置が反転しているものも見つかっています。
そして、注目すべき点は修理の跡です。盾には、亀裂が入った部分をひもで綴じて補修した跡が複数見られます(本紙表紙参照)。これは、盾が使い捨てではなく、何度も修理しながら長く大切に使われていた証拠です。
◇盾の学術的価値について
平安時代に編さんされた法典「延喜式(えんぎしき)」には、儀式の際に隼人の盾を180枚使用することやサイズ(長さ約150cm・幅約48cm)などが記されていて、大嘗祭(だいじょうさい)などの大事な儀式にも使用されていたことが分かります。
発掘された盾は、サイズや特徴が延喜式の記述と一致しており、史料にある古代の道具が現実に発見されるというのは、考古学上、非常に珍しい事例といえます。
◇大住と隼人の関わり
「隼人」は、古代、九州南部の薩摩・大隅(おおすみ)半島に住んでいた人々を指します。彼らの一部は国家によって近畿地方へ移住させられ、宮中の警護や竹細工の献上、そして芸能(隼人舞など)による奉仕を行っていました。京田辺市の「大住」という地名は、鹿児島県の「大隅(おおすみ)」に由来するとされ、移住してきた隼人たちが住み着いた拠点の1つであったと考えられます。竹細工が得意だったという記録もありますが、京田辺がタケノコの産地であることと重なり、歴史のつながりを感じます。
◇市民の皆さんにメッセージ
隼人の盾は、普段は平城宮跡資料館でレプリカが展示されていますが、本物でしかも複数枚を一般公開するのは、私が知る限り初めてではないでしょうか。写真やレプリカでは伝わり切らない木の質感・修理の痕跡・うっすらと残る文様の下書き線など、細部まで観察すると、当時の人々の盾との関わりが見えてきます。この貴重な機会に、1300年前の本物が放つ迫力を、ぜひ肌で感じてください。
■〔本物の盾が見られるまたとない機会〕市文化財指定制度50周年記念イベント
無料・申込不要
◆記念講演会
日時:2月15日(日)午後1時30分~3時30分
場所:中央公民館大ホール
テーマ:平城宮跡から出土した隼人の盾
講師:奈良文化財研究所都城発掘調査部考古第一研究室室長の和田一之輔さん
問合せ先:文化・スポーツ振興課
【電話】64-1300
◆隼人の盾実物展示
~文様が反転した盾の展示も~
日時:2月11日(祝)~15日(日)午前9時~午後5時
2月11日(祝)・14日(土)・15日(日)午前11時~11時30分は、学芸員が展示資料の見どころや魅力を解説します(各日先着15人程度)。
場所:中央公民館第1研修室
内容:
・隼人の盾(実物4枚、復元品1枚)
・森浩一さんの資料「日本古代文化の探究 隼人」の原稿と図版
◇森浩一さんってこんな人 隼人への造詣も深い
同志社大学名誉教授。平成24年第22回南方熊楠賞を受賞。同25年逝去。考古学を専門とし、生前は多くの著作や講演会などの活動を通じて考古学ブームを牽引しました。今回は同志社大学歴史資料館が所蔵する森浩一資料の中から隼人について書かれた原稿や図版を展示します。
《奈良文化財研究所》
奈良を拠点として文化財を総合的に調査研究する公的機関です。平城宮跡や飛鳥・藤原宮跡をはじめとした発掘調査や、文献史、建築史、遺跡整備、保存修復科学など多岐にわたって文化財の調査研究を行っています。
※同研究所のシンボルマークには、「隼人の盾」の文様がデザインとして使われています。
問合せ先:文化・スポーツ振興課
【電話】64-1300
