文化 市史だより Vol.311

■未来に伝える葛の葉伝説
綺麗になった浮世絵、見に来ませんか
信太の森ふるさと館では、6月1日(日)から展示室の一角で、「修復浮世絵お披露目展示」を行います。
文化遺産の保存・修復・活用事業として浮世絵の修復を行い、安定して鑑賞ができるようになりました。

和泉市の北部に位置する信太地域は、「葛の葉伝説」の舞台として有名です。
「葛の葉伝説」は、ご存じの人も多いでしょう。いくつも異なるパターンのお話がありますが、概要をまとめると、安倍保名(あべのやすな)という青年が、和泉国(いずみのくに)の信太の森で白狐を助けます。後日、「葛の葉」という女性と結ばれ、こどもを授かりますが、ある時、葛の葉の正体がかつて助けた狐であることが判明し、彼女は「恋しくば訪ね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」という和歌を残して、森へと帰ってしまう、というお話です。こどもは後の陰陽師(おんみょうじ)・安倍晴明(あべのせいめい)であるともいわれています。
江戸時代には、浄瑠璃(じょうるり)『しのだづまつりぎつね付(つき)あべノ清明出生』(延宝(えんぽう)二年・一六七四)などに取り入れられ、多くの人に知られるようになります。
特に、享保(きょうほう)十九(一七三四)年成立の浄瑠璃『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』は人気となり、歌舞伎でも上演されました。
宮中(きゅうちゅう)の権力争いを背景に、陰陽道の秘伝の書をめぐる安倍保名と蘆屋道満の争い、保名と狐の出会いと別れ、狐の子・童子丸(どうじまる)(晴明)の活躍が盛り込まれた壮大なお話で、現代でも上演されています。
浮世絵には、この『蘆屋道満大内鑑』や派生作品の登場人物を描くものも多くあります。信太の森ふるさと館でも数点を所蔵していますが、傷みが激しいものがあり、今回、専門家による修復を行いました。
これは江戸時代後期に作られた三枚一組の浮世絵で、「娘葛(むすめくず)の葉(は)」「与勘平(よかんべい)」「野干平(やかんべい)」が描かれています。「娘葛の葉」は狐ではなく人間の娘で、狐は彼女の姿を借りていたのでした。
和歌をたよりに信太の森を訪れた娘葛の葉たちは、悪者に襲われます。そこで保名の家臣「与勘平」と、そっくりな「野干平」が守ってくれるのですが、「野干」とは狐のこと。信太の森の狐が、仲間である葛の葉狐のためにひと肌脱いでくれたのです。
この浮世絵は、もともと傷みがあったため、過去に裏打ち(本紙の裏に紙を貼って補強すること)がされ、「娘葛の葉」の欠けた部分は黒い紙で補修されていました。今回の修復では、この古い裏打ちの紙を丁寧にはがし、浮世絵の色調に合わせて染めた和紙で改めて裏打ちが行われました。展示では、修復前後の違いも紹介します。
かつての補修を行った誰か、そして今回の修復に関わった人たちの、大切な文化財を未来に伝えようという思いを感じていただければと思います。
展示について詳しくは、本紙14ページ「信太の森ふるさと館の催し」をご覧ください。

問合せ:信太の森ふるさと館
【電話】45・0605