- 発行日 :
- 自治体名 : 岡山県津山市
- 広報紙名 : 広報津山 令和7年7月号
■玄随が記した痛風治療法
津山の蘭学者として有名な宇田川(うだがわ)家は、元々は漢方医の家系でしたが、宇田川玄随(げんずい)(1755~1797年)が西洋医学を学び、江戸中期以降の蘭学の普及に貢献しました。
玄随は、西洋内科に強い関心を持ち、内科治療に必要な西洋薬学にも目を向けました。その始まりが『ネーデルランド草木誌』の翻訳です。この本はオランダ(ネーデルランド)の植物学者であるペトルス・ニーランドが出版した薬学専門書です。玄随はこの本の内容を翻訳し『泥蘭度草木略(ニーランドそうもくりゃく)』を著します。
では、少しこの本の内容に触れてみましょう。写真に映っている部分には「蕃椒(とうがらし)(唐辛子)」が出てきます。ここでは「痛風」の治療法として「痛風ノ足ニアル者ヲ治スルニハ蕃椒ヲ取テ摟(ひ)キ細ニシ多少宜ニ従ヒ患処ニ傳貼(ふちょう)ス、且其葉ヲ以テ水ニ浸シ飲シム多ク悪液ヲ瀉下(しゃか)ス」と記載されています。「痛風の患部には細かく砕いた唐辛子の実を貼り付け、残りの葉の部分は水に浸して飲むと悪液(体に溜まった毒素)を洗い出してくれる」という内容です。現代風に言い表すならデトックスでしょうか。現代医学での痛風の治療とは大きく異なりますが、当時の薬学の一端が垣間見られる興味深い記載です。
玄随の西洋内科学の著書『西説内科撰要(せいせつないかせんよう)』に養子の玄真(げんしん)が加筆した『増補重訂 内科撰要』の中でも痛風について言及しており、痛風は毒素が神経液に入り込んで、肉や膜を循環することで発症すると述べています。
すると述べています。また、症状については「疼痛(とうつう)ヲ以テ病トス、四肢関節ニ患ヒ、其痛漸(そのいたみぜん)ヲ以テ増進シ関節ヨリハ関節ノ間ニ多ク発シ」と書かれています。
現代社会では代表的な生活習慣病の一つに数えられる痛風ですが、江戸時代の日本ではほとんど見られませんでした。臨床データが蓄積されていない中で、玄随・玄真がオランダ語の医学書の内容を正確に翻訳し、痛風の原因や症状を紹介していることは、注目すべき事実です。
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