- 発行日 :
- 自治体名 : 愛媛県内子町
- 広報紙名 : 広報uchiko 2025年11月号
■指導者が語る子ども相撲の未来 ぶつかれない時代だからこそ――
内子相撲クラブで子どもたちを指導する佐々木剣心さんと泉清一さん。自身が相撲を通じて学んだこと、そして子どもたちに伝えたいことは何でしょうか――
●同じ土俵でぶつかり合ってこそ、伝わることがあるはず――
内子相撲クラブ 監督 佐々木剣心(けんしん)さん
○相撲との出合い
小学1年生で体重は50キロ。相撲は使いどころが分からない自分の力をぶつけられる場所でした。4年生になって対戦した先輩を突き飛ばした時に「この力は土俵の外で人に向けちゃだめだ」と感じました。中学からは親元を離れて愛南町に下宿し、南宇和高校相撲部の先輩と共同生活をしながら稽古に励みました。高校3年時に出場したえひめ国体が、選手としての最終目標。団体チームには同級生で現・十両の風賢央(かぜけんおう)がいました。彼のおかげで余計な重圧もなく、そして天狗にもならずに済みました。本当にすごい経験ができたと思います。
○「怖い先生」になろう
内子相撲クラブで本格的に指導を始めたのは20歳の頃から。子どもに教えるのは本当に難しい――。まわしをつかんだ時の感触、攻め時を捉える勝負勘など、相撲は感覚的な部分が多く、伝えるのは簡単ではありません。そもそも、子どもは思い通りにはいかず、怒り過ぎても褒め過ぎてもだめ。指導者としてどうするべきか、とても悩みました。
ふと昔、怖い先生にめちゃくちゃ怒られたことを思い出しました。感情をぶつけてくる先生に「この人の言うことは聞かなきゃやばい」と思ったものです。その時、子どもはうまく導こうとするだけじゃだめだと思ったんです。同じ土俵で互いに本気でぶつかってこそ、伝わるものがあるのでは、と――。
最近の子どもたちは感情的に怒られることが少ないかもしれません。怒られるのも、善悪を知るためのいい経験です。だから自分は「怖い先生」でいようと考えています。子どもたちには、なぜ怒られたのか、何が足りなかったのかを考えられるようになってほしい。保護者の皆さんには「僕が怒るので、帰ったら慰めてあげてほしい」と思っています。
○相撲に情熱を注ぐ先輩のように
クラブで長年、指導してくれた泉さん。小学生の頃は「元気な親戚のおっちゃん」のように思っていましたが、今は師匠といえる存在です。中学の下宿先も度々のぞいてくれ、クラブの運営も大会の審判もして、どれだけ相撲に尽くす人なのか。大先輩は「子どもが相撲を経験してくれれば、それでいい」と言っていました。――すごく重い言葉でしたね。でかすぎる存在ですが、いつか自分もそんな人間になりたいです。
■ぶつかれない時代だからこそ、触れてほしい
内子相撲クラブ 代表 泉清一さん(せいいち)
○内子相撲の歴史内子町の宮相撲は350年の歴史があるといわれています。元は各神社で行われた奉納相撲が、知清河原で大々的に開かれるようになりました。昭和の娯楽が少なかった時代、相撲は夏の一大行事。旧内子町・五十崎町では、県内外から大人の力士を呼んだ対抗戦があり、応援にもそれは熱が入ったといいます。戦後は徐々に力士が減り、次第に子ども相撲へと変わっていきました。
内子町相撲協会はこの相撲大会を運営する団体です。平成元年にはついに常設の知清相撲場が完成。その土俵開きとして行われたのが第1回「ちびっ子相撲内子大会」です。愛媛県相撲連盟と組んで県大会となり、現在に至ります。私が相撲協会に入った平成10年頃、内子の出場選手は寄せ集めで、練習期間は1カ月ほど。これでは勝てない――そこで数年後、相撲協会の協力を得て「内子相撲クラブ」を立ち上げました。
○相撲は誰もが楽しめる
相撲はルールがとても簡単です。足の裏以外の体の一部が地面に着くか、土俵の外に出たら負け。この分かりやすさが海外でも人気な理由でしょう。体が大きければ勝つとは限らず「柔よく剛を制す」「小よく大を制す」も、子ども相撲の魅力です。力が強い子、運動神経がいい子、負けん気が強い子――いろんな子がいます。まずは楽しみながら、個性を伸ばしてほしいです。
始めるなら、ぜひ小さいうちから経験させてあげてください。体格差が小さい低学年のほうが、ぶつかり合いも、まわしを締めるのも抵抗が少ないです。町大会も団体戦が5人制から3人制になり、参加しやすくなりました。せっかくいい環境があるので、たくさんの人に触れてほしいですね。
○痛みを知り、感謝を胸に
私が子どもの頃、遊びといえば砂場で相を取るのが普通でした。かすり傷もよくありましたが、自然と痛みも覚えました。テレビゲームは上手くいかなければリセットでき、命が回復しますが、現実は違います。今は「人に優しくしよう」と、ぶつかり合いが避けられる時代。でも自分が痛みを経験するからこそ、他人の痛みも想像できるのではないでしょうか。
相撲は相手がいないとできない競技。相手を敬う気持ちが大切です。相撲が取れることへの感謝、そして親や先生、応援してくれる人への感謝を忘れずに、楽しんでくれたらうれしいです。
