- 発行日 :
- 自治体名 : 熊本県高森町
- 広報紙名 : 広報たかもり 令和8年2月号
このたび、自然編、文化・産業編、歴史編の3部構成となった新しい高森町史を46年振りに刊行することができました。
高森町史編さん事業は、令和2年度から5年間をかけて、各分野の専門家16名の皆様に調査、執筆をお願いしてきました。町史執筆者をはじめ、関係者の皆様には心から感謝申し上げます。
本町の歩みを多角的に整理し、豊富な資料と最新の成果を踏まえてまとめられた本町史は、ふるさと高森を理解するための貴重な一冊です。
今回、本号から3回にわたり、本町史の特集を組み、その読みどころを町史執筆者にわかりやすく紹介していただきます。
なお、本町では町民の皆様にご利用いただいている「高森町タブレット図書館」でも、閲覧することができますとともに町内の公民館・集会所に1部ずつ配備しました。
本町史を通じて高森町の自然、文化産業、歴史に目を向けて郷土への誇りと理解を深めていただく機会となれば幸いです。
高森町長 草村 大成
■第1回 自然編
●高森町の象徴、根子岳はいつ頃、どのようにしてできた?
[自然編/第1章 高森町の自然環境]
公益財団法人 阿蘇火山博物館久木財団 学術顧問 池辺 伸一郎
根子岳は、あの独特の山の形により、高森町でも多くの方々に親しまれています。
従来から山のできた時期やそのでき方など不思議なことも多く、多くの研究者の間で議論が続けられてきています。とくに、山の生まれた時期については、以下のように二転三転しながら現在に至っています。
▽カルデラ形成後の火山という考え方
根子岳は阿蘇カルデラの内側にあるように見えるので、高岳や中岳などと同じように、中央火口丘群(約9万年前のカルデラ形成後に生まれた火山群)の仲間であると従来から考えられてきました。
▽カルデラ形成より古い時代の火山という考え方
しかし、1980年代頃から熊本大学や地質調査所(現産業技術総合研究所)によって調査が進められた結果、以下のような点から根子岳は今のカルデラよりも古い時期に生まれた火山、つまり今のカルデラが生まれる前から存在していたと考えられるようになったのです。
・根子岳の岩石の年代測定値がおおよそ10万年前より古い。
・浸食によるギザギザした地形は古い時代に生まれたと推定される。
・箱石峠付近では根子岳の溶岩の上に約12万年前の阿蘇3火砕流が重なっているように見える、つまり阿蘇3火砕流より古い時代に根子岳の溶岩があるように見える。
・カルデラ内の重力異常(地下に重たい岩石があると重力値は大きくなり、軽い岩石があると小さくなる。このような性質を利用して各地の重力値を測定し、地下構造を推定する方法)の様子が根子岳の部分だけ、他の山とは別に見えている。
・岩石学的特徴が他の高岳や中岳とは異なり、九重や金峰山の岩石に似ている。
▽やっぱりカルデラ形成後に生まれたものだという考え方
そういった中で、2022年に熊本学園大学や福岡大学などの研究者によって根子岳の岩石の詳細な年代測定が改めて行われ、以下のような結果が出ました。
・岩石の年代が5万年前~8万年前という高精度の値が得られた。
・形成のストーリーは、主たる活動として約8万年前に溶岩を流出、約6万6千年前に大量の溶岩を噴き上げ、6万4千年前と5万年前頃にマグマが貫入。
年代測定の技術は以前に比べて格段に向上しており、従来の測定値より信頼度は高くなっていますので、2025年時点では、根子岳は中央火口丘群と同じ時代に生まれた火山である可能性が高いと考えられます。また一方では、上記のとおり重力異常の問題や岩石学的な特徴の意味付けが十分には解明されていない状況でもあります。
今後、さらなる現地調査や様々な研究によって、根子岳の生い立ちがより深く解明されていくことを期待したいものです。
■地球の歴史の生き証人 ハナシノブ・ツクシマツモトなどの貴重な植物たち
●自然編/第2章 植物
認定NPO法人阿蘇花野協会 専務理事 瀬井 純雄
高森町のキャッチフレーズは、「野の花と風薫る郷」。根子岳や祖母山の麓に広がる草原に、数多くの野の花たちが咲き誇っています。春、野焼きの終わった草原にはキスミレやミチノクフクジュソウ、サクラソウなどが咲き始め、夏には高森町花のヒメユリをはじめ、ユウスゲ、ノハナショウブなど色とりどりの花たちが彩りを添えます。八月お盆のころになると、オミナエシやカワラナデシコ、サワヒヨドリなど秋の七草が咲き誇り、「盆花」として墓前に供えられました。秋になると、リンドウやウメバチソウ、ヤマラッキョウなどが咲いて、一年の終わりを告げます。
高森の植物の特徴は、ハナシノブやツクシマツモト、ヤツシロソウ、ケルリソウ、アソノコギリソウ、アソタカラコウなど、国内で阿蘇だけに生育する貴重な植物が数多く自生していることです。草原を彩るこれらの植物は、大陸系遺存植物と呼ばれ、朝鮮半島や中国東北部(旧満州)とに共通して分布しているものです。わが国では阿蘇久住で見られますが、他地域ではほとんど見られないものです。現在よりも気候が冷涼で、朝鮮半島と九州とが陸続きであった時代に、大陸から南下してきて、阿蘇とその周辺に遺存したものと考えられています。そして、阿蘇の火山活動と、野焼きや放牧・採草などの人間活動の影響によって草原状態が維持され続けたことと、高原の冷涼な気候に恵まれて現在まで残存したものと考えられています。これら大陸系の植物は、直接に口を開いて自らの歴史を語るわけではありませんが、阿蘇・高森に存在することによって、アジア大陸と九州とが陸続きであったことを語る「歴史の生き証人」となっています。
高森を代表する植物は、ハナシノブとヒメユリです。ハナシノブは、地球上で高森町内の野尻・草部地区と阿蘇市波野地区にのみ生育する植物です。環境省の調査によれば、これまで60地点ほどで自生が確認されていましたが、ほとんどの場所が植林や放棄によって姿を消しました。現在も自生している場所は、環境省の保護区など10地点ほどになっています。高森町花のヒメユリも、国内における分布域は広いものの、全国的に草原が激減する中で絶滅の危機に瀕していて、高森の草原は重要な生育地です。これらの植物は、学術的に貴重であり希少価値からもその保全が極めて重要なものです。野の花と風薫る郷のシンボルとして、ぜひとも後世に引き継いでいきたい植物たちです。
