くらし [特集]伝わる想い、つながるこころ~手話言語条例10年の歩みとともに~

平成28年に制定された帯広市手話言語条例は、今年で10周年を迎えました。今回は手話にまつわる歴史やこれまでの市の取り組みを振り返るとともに、手話を含めた多様なコミュニケーションの取り方について紹介します。

◆手話は「言語」です
手話は、音声言語である日本語とは異なり、手指や体の動き、表情によって視覚的に表現す「言語」です。筆談や口話などと同様に、ろう者※がコミュニケーションを図るための重要な手段の一つでもあります。
※ろう者…聴覚に障害のある人のうち、手話を第一言語としている人

◆手話が使えなかった時代
わが国における手話の始まりは、明治11年に古河太四郎氏が創設した国内初のろう学校「京都盲唖院(もうあいん)」からといわれ、古河氏が考案した「手勢(しゅせい)法」が日本手話の原型となっています。しかし、明治中期ごろから昭和後期まで、手話よりも口の動きを読み取り発声を身に付ける「口話法」の方が優れているとされ、多くのろう学校で手話が禁止されていました。そのため、ろう者は人目を気にしながら手話で会話せざるを得ないなどの不自由な状況下にありました。

◆「帯広市手話言語条例」の制定
手話が使えなかった時代を経て、平成18年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」のほか、平成23年に改正された「障害者基本法」により、手話が「言語」として位置付けられました。こうした流れを受けて、市では平成28年3月28日、市民が手話に対する理解を深め、ろう者にとって手話を使用しやすい環境づくりを通じて、ろう者と聞こえる人が共生できる地域社会を目指すため、「帯広市手話言語条例」を制定しました。

◆手話でつながった10年
条例の制定後、市では手話の普及に向けたさまざまな取り組みが行われ、多くの市民が参加してきました。取り組みの一例を紹介します(人数は令和6年度末時点)。

◆帯広市の手話の歴史
「市の手話は、こうして歴史を重ねてきたんだね!」
▽昭和54年
市民対象手話講座開始
▽平成4年
手話通訳者派遣事業開始
▽平成23年
障害者基本法の改正(手話が言語と明記)
▽平成27年
帯広市手話に関する条例の制定に係る検討会を実施
手話奉仕員養成講座に名称変更
▽平成28年
3月28日手話言語条例の可決
4月1日手話言語条例の施行全市職員が必修研修として手話講座受講(以後、新規採用職員研修として実施)
ふれあい市政講座「手話を学ぼう」開始
▽令和2年
おびひろ市民学(手話講座)開始

◆ふれあい市政講座
受講者延べ1257人
町内会の集まりや職場などに訪問して行う出前講座。ろう者や手話の歴史を知り、簡単な手話を学びます。
申し込みは、障害福祉課まで問い合わせください。

◆手話奉仕員養成講座
修了者延べ250人
全40回で、ろう者と手話で簡単な日常会話ができる手話奉仕員を目指します。修了者の中には手話通訳者へステップアップした人もいます。

◆おびひろ市民学
受講者延べ14139人
各小・中学校で年1回行う必修授業として令和2年から開始。
多くの児童生徒が受講し、手話への理解を深めています。

◆手話ができなくても、つながる
近年は、手話を扱ったテレビドラマが放送されるなど、若い世代を含めて手話に対する関心は高まってきています。しかし、簡単な手話ができても、しっかりとろう者とコミュニケーションを取れるようになるのは容易ではありません。そのため「私は手話ができないから…」と、消極的になってしまう人がいるのも事実です。そこで、次ページでは手話ができなくても、ちょっとした工夫でろう者とコミュニケーションが取れる方法を紹介します。

■こんな場面で困っています
聞こえないことは「見えない障害」ともいわれます。補聴器やヘルプマークがあっても、見た目からは聞こえる人との違いが分かりにくく、困っていても助けが届きにくい場面があります。
では、ろう者はどんな場面で困っているのか、実際のケースと対応方法を見てみましょう。

▽ケース1
背後から呼び掛けられていても、分からない。
対応:相手の視界に入ってから、呼び掛ける。
▽ケース2
マスクで口が隠れていて、口の動きや表情が見えない。
対応:マスクを外し、口元を見せてゆっくり話す。
▽ケース3
会議など複数の人が一度に話すと、内容の把握が難しく、会話についていけない。
対応:できるだけ、1人ずつ発言し、会話についていけるように配慮する。

■五つの伝え方を知ろう
手話ができなくても、ろう者とコミュニケーションを取る手段はさまざまあります。以下の五つの例を参考に、相手に伝わる方法で、ろう者と会話してみましょう。
(1)指文字
指の形や動きを使って日本語の50音や数字を1文字ずつ表す方法。
人名など、手話で表現できない場合に使用する。
(2)筆談
紙やスマホのメモなどに文字を書いて伝える。
短く、漢字かな交じりだと読みやすく、伝わりやすい。
(3)空書(そらがき)
指先で空中に文字をなぞって相手に伝える方法。筆談や音声文字認識アプリが使えない場面で有効。
(4)口話
相手の口の動きや形、表情を手掛かりに話の内容を理解する方法。話し手は、ゆっくり・はっきり口を動かすと伝わりやすい。
(5)音声文字認識アプリ
人が話した音声をリアルタイムで聞き取り、画面上に文字として表示するアプリケーション。

■「伝えたい」という想いがあれば
帯広ろう者協会会長 荒木勝洋さん
私は生まれつき聴覚に障害があり、現在は帯広ろう者協会の会長を務めています。また、市の手話講座の講師などを通してろう者理解の普及に取り組んでいます。一昔前は、ろう者であることを理由に運転免許が取得しにくいなど不便な時期もありましたが、手話言語条例の制定をはじめとした取り組みが進み、少しずつではありますが、暮らしやすさが向上してきたと感じています。
手話言語条例制定から10年。ある日、私が手話を教えた生徒とスーパーで会ったとき、手話であいさつをしてくれました。あの瞬間、簡単な手話で気持ちを通わせることができ、とてもうれしかったです。ただ、ろう者が常に手話だけを求めているわけではありません。もちろん、手話で会話しようとしてくださることはありがたいですが、ジェスチャーや筆談など、どのような手段であっても、「伝えたい」という気持ちがあれば、相手に想いは届きますし、心のつながりが生まれると信じています。
これからも講師として活動を続け、ろう者理解の普及に努めていきたいと思います。11月に私も参加するオビパラフェスタのワークショップなどでは、多くの聞こえる人がイベントを通してろう者と触れ合い、少しでも「ろう者と会話してみたい」と思う機会になればうれしいです。

■オビパラフェスタ
障害福祉事業所や関連団体による販売会やワークショップ、パラスポーツ体験会などが楽しめるオビパラフェスタ。今年は手話言語条例10周年を記念した特別企画など、イベントが盛りだくさんです。
日時:11月29日(土)、30日(日)、10時~15時
場所:よつ葉アリーナ十勝(大通北1)

[1]ダイアログ・イン・サイレンス・ショーケースin(イン)帯広
北海道初開催
(応募多数の場合は抽選)
・ボディランゲージなど、音や声を出さず対話を楽しむプログラム

[2]講演会「わかりあう、つながりあうー共生社会の実現に向けてー」
講師:ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事 志村真介氏
定員:先着150人

[1]・[2]10月22日(水)〜11月9日(日)までにWEB(ウェブ)フォームから申し込み
※各イベントの開催日時は市公式ホームページを確認してください

最新のイベント情報は市ホームページを確認してください

問合せ:障害福祉課(市庁舎1階)
【電話】65・4148