くらし 特集 地域資源を活かした、新たな挑戦 栗山の恵み、人をつむぐクラフトビール(2)

▽妥協せず、丁寧につくる
「ビールの個性を際立たせるためには、妥協せずレシピ通りに丁寧に造ることこそが何よりも大切です。思い通りのビールができたときが一番やりがいを感じます」と石井さん。
仕込みから完成まで、そのほとんどを一人で行い、一度の醸造で300ℓ(800缶分)ものクラフトビールを、6~7時間かけて造り上げます。缶への充填やラベル貼り作業なども含めると、完成までにはどんなに急いでも3週間を要しますが、その真摯な仕事ぶりが、くりやまクラフトの味を支えています。

▽クラフトビールが伝える町の魅力
石井さんが目指すのは、「栗山まで足を運んで、ぜひ飲みたい」と思ってもらえるような、地域ならではのビール。そのため、常にアンテナを張り、他のブルワリーの商品やPR戦略を研究するほか、直営店では来店者から直接感想を聞き、新たな醸造のヒントを得ています。
「栗山町は新しいことに挑戦する仲間が多く、チャレンジしやすい環境だと感じています」と語る石井さん。地域資源を大切にする想いから、ビール醸造後の麦芽のしぼりかすを町内の畜産農家に飼料として再利用してもらう取り組みも行っています。
今後は、地元産の新たな原料を使ったビールの開発や販路拡大など、より積極的に事業を展開していく考えとのこと。石井さんの絶え間ない挑戦は栗山町の魅力をさらに広げていくことでしょう。

〈KURIYAMA CRAFT HOKKAIDO〉
(1)まつかぜ322
名前は醸造所の住所。
(2)InsPirAtion(インスピレーション)
果実のような香りと、さわやかな苦み。
(3)人はそれをヴァイツェンと呼ぶ
ヴァイツェン=小麦。南空知産小麦を使用。
(4)秋しぐれ
栗山町産ホップ100%使用。

◇夢を育むホップ
〇The北海道ファーム株式会社 坂井行宏(さかいゆきひろ)さん
これまでも「とりあえず作ってみよう」というチャレンジ精神で、さまざまな農産物の生産や加工に挑戦してきました。
ビールを造りたい。その思いから、原料のホップを栽培することを決意しました。令和5年に山梨県のホップ農家さんから株を分けてもらい、育て方を教わって、ホップづくりをスタートさせました。
栽培は順調に進んだものの、ホップの加工に課題を感じていた時、クラフトビールを造っている石井さんと出会いました。石井さんのおかげで、自分の育てたホップがビールになるという夢が叶いました。現在栽培しているのはカスケードという品種。さわやかな香りが特徴でビールによく使われるメジャーなホップです。比較的暑さに強く、育てやすいのですが、春には肥料をしっかり与え、芽を間引き、雑草をこまめに刈るなどの手入れが欠かせません。収穫は年に一度、夏頃になります。育てやすいとは言っても、収穫は手作業なので大変。ボランティアの方々にも協力してもらい、なんとか収穫しています。
実際に「くりやまクラフト」のビールを飲んでみましたが、一般的なビールと比べ、ホップの香りがしっかりと感じられ、味や色をじっくりと楽しむことができました。栗山町のクラフトビールがメジャーとなり、ホップの需要が増えることを期待しています。なお、The北海道ファームの直営店でも「くりやまクラフト」のビールを販売しています。
現在は、さまざまな作物の収穫体験ができるような観光農園も準備しています。楽しみながら収穫してもらいたいですし、町内外から人が集まる場所にしたいですね。それが栗山町の魅力を知ってもらうきっかけになり、地域活性化の切り口になれば嬉しいです。

◇地元の味「鳳紋」と新たな歩み
〇小林酒造株式会社 取締役 企画室長 小林米秋(こばやしよねあき)さん
私たち小林酒造は北海道産の米を100%使い、お米の自然な甘みを生かした、すっきりと切れの良い後味が特徴の日本酒「鳳紋北の錦」を造っています。
「開拓の酒蔵」として、北海道の開拓者の精神を大切にしながら、北海道の恵みを活かして、新しい取り組みにも積極的に挑戦し続けています。まさに、「北海道らしい酒」を目指しています。
町内の酒屋としてストアーやまかねさんとは以前からつながりがあり、やまかねさんから、くりやまクラフトの醸造所ができると聞いていました。その石井さんから当社のお酒を使いたいと声をかけてもらい、同じお酒を通して栗山町を盛り上げるお手伝いができることをとても嬉しく思いました。石井さんが重視する地域性に加え、町内で認知度が高く、日常酒として親しまれている地酒「鳳紋」が最適だということで、意見が一致しました。さらにコストパフォーマンスにも優れているため、多くの方に気軽に楽しんでもらえるお酒です。実際に石井さんのクラフトビールを味わうと、口当たりがさらりとして飲みやすく、鳳紋の香りや味わいがしっかりと融合していることに感動しました。
現在、本社敷地内に「八番蔵」と名付けた新たな酒蔵を建設中で、105年ぶりの新築となります。来年2月の稼働を目標に、最新の設備で温度管理や酸化防止に務め、より新鮮で高品質な酒造りを目指しています。従来の、れんが造りの蔵は今後観光向けの見学施設として活用する予定です。
また、クラフトビールのように多彩な風味やホップの香りを楽しめる新感覚の味わいにもチャレンジしたいと考えています。日本酒をあまり飲まれない方にも気軽に体験してもらい、そこから当社の酒に興味をもってもらえれば嬉しいです。
これからも町の皆さんと一緒に、地域の魅力を発信していきたいと思います。