くらし 特集 地域資源を活かした、新たな挑戦 栗山の恵み、人をつむぐクラフトビール(1)

最近よく耳にする「クラフトビール」。大手メーカーのビールとは一線を画し、小規模な醸造所が独自の製法で造るクラフトビールは、その多様な味わいと奥深さで、多くの人々を魅了しています。そして、ここ栗山町にも地域ならではのクラフトビールのブランドがあります。
その名は、「くりやまクラフト」。栗山町産の日本酒やホップなど、地元の食材を積極的に活用したビール造りに取り組んでいます。このビール造りをきっかけに、これまで接点の少なかった町内の人々が出会い、新たなつながりが生まれています。
今回の特集では、「くりやまクラフト」の活動を通して、栗山町の地域資源を活かした新しい挑戦とクラフトビールがつむぐ人と人とのつながりに光を当てます。

〇株式会社くりおこクラフト 代表 石井翔馬(いしいしょうま)さん
地域おこし協力隊を経て町内で飲食店を経営し、コロナ禍にビール醸造を決意。小林酒造の日本酒、町内産ホップ、南空知産麦芽など地元の豊かな素材を使い、常に新たな味を追求し続けている。飾らない人柄と何事にも熱心に取り組む姿勢が人との交流を生み、地域全体を活気づけている。

▽誕生、南空知初のクラフトビール醸造所
くりやまクラフトが誕生したのは、石井さんの経営している飲食店が、コロナ禍で大きな影響を受けたことがきっかけでした。
思うように営業できない日々が続く中、石井さんは「何か新しいものづくりを」と考え、クラフトビール造りの道を選びました。もともとビール好きで、「いつか自分で造れたら面白いだろうな」という想いを抱いていたことも選んだ理由の一つでした。
しかし、ビール造りの経験はゼロ。そこで石井さんは、研修を受け入れてくれる醸造所(ブルワリー)を探し、札幌市のクラフトビール醸造会社で学ぶことに。知識はもちろん、実際に10回ほど醸造を経験し、技術を習得しました。
その後、酒類の販売などを行う有限会社ストアーやまかね(松風3)の一角に醸造施設を設け、今年3月、ついに念願のクラフトビール造りをスタートさせました。

▽栗山町らしいビールを
クラフトビール業界が盛り上がりを見せる中、石井さんが考えたのは、栗山町ならではの個性を打ち出すこと。そこで着目したのが、町内の老舗酒蔵、小林酒造の日本酒でした。
日本酒の酵母や酒粕などを利用したビールは存在するものの、石井さんは「日本酒そのものを原料にする」という発想は珍しいと考え、独自のレシピを考案。こうして誕生したくりやまクラフトのビールには、すべて小林酒造の日本酒「鳳紋」が使用されています。
日本酒を加えるタイミングにも、石井さんのこだわりが詰まっています。「日本酒は煮沸の最初から入れると香りが飛んでしまうので、途中で加えるのがポイントです。ただし、日本酒を入れてからの煮沸時間が短いと、日本酒由来のアルコール分が残ってしまうので、香りを残しつつアルコールを飛ばす絶妙なタイミングを狙っています。また、日本酒の量にもこだわりがあり、風味と価格のバランスを考慮して、最適な量を見つけ出しています」と石井さんは語ります。

▽鮮度を追求する生ホップへのこだわり
地域おこし協力隊時代に培ったつながりをきっかけに、石井さんは栗山町内でホップを栽培する坂井さんと出会います。石井さんは「まさか栗山町にホップ生産者がいるとは思ってもみませんでした。本当に思いがけない幸運でした」と当時を振り返ります。身近なところにホップを栽培する農家が存在するのは非常に稀まれです。ビールに使われるホップは輸入したホップを使うのが主流ですが、この出会いをきっかけに、地元産のホップを使ったクラフトビール造りにも挑戦することになります。
一般的なビールでは乾燥ホップを使うことが多い中、石井さんは坂井さんの育てた新鮮な生ホップを使うことにこだわりました。
生ホップは乾燥ホップの約5倍もの量を収穫後24時間以内に使用するため、生産地と醸造所が近いということはとても大きなメリットになります。その風味を引き出すために、丁寧に手で揉み込まれたホップを麦汁と共に煮込みます。投入するタイミングや量、回数を厳密に管理することで、苦味と香りの調和を追求しています。石井さんは手間暇を惜しまず、最高の一杯を仕上げます。