- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道東神楽町
- 広報紙名 : 広報東神楽 2025年9月号(第732号)
どのような環境の中で、どのような人たちと出会うかで、私たちの人生は大きく変化します。私の仕事の都合で、我が家の子育ては出産と同時に全く知り合いもいない、新天地でのスタートとなりました。そんなどこにでもいる若い夫婦の初めての子育てを振り返って記された当時のリアルな新米母親の記録です。
「感謝!」(20××年3月H町子育て支援センター文集より)
T(新米母親5か月)
Y(生後5か月)
私たち夫婦になかなか子どもができず、諦めかけていた結婚5年目にYを授かりました。生まれてきたYは私の想像を超えて、とても可愛く、今までに味わったことの無いとても幸せな気持ちにさせてくれます。
仕事(※新生児医療に関わる看護師)で赤ちゃんを看たことはあったけれど、育児は初めてで、ほんの些細なことも気になりました。それが少しずつ大きな不安に膨らみ、育児書や雑誌を読みあさり、それを見て納得した気持ちになる。何事も三日と持たないほど面倒くさがりやの私が、Yの成長を記した日記を続けている。毎日、育児日記を書いて、夫の帰りを待って過ごす毎日。それなりに大変だったけど、充実した毎日を過ごしていました。
ところが生後2~3か月頃から、なぜだか訳も無く泣きたくなってしまうようになりました。Yも、すくすくと元気に育ち、育児も楽しく、なんの障害になることも無いはずなのに気づくと涙が出ています。ある晩、夫と何気ない会話をしている時、急に涙が止まらなくなりました。そんな私に驚いた夫は、家にこもっていないで気分転換の為に外出してみてはと勧めてくれました。初めは子どもの為にと思って、子育て支援センターの0歳児限定よちよち教室デビューを試みました。しかし、そこにはなぜか人と触れ合う事ができない自分がいました。優しくされると涙が出てきそうになります。でも、外から帰ってくると何だか気分が違いました。
予防接種の時、子育て支援担当の保育士さんが同じ月齢の子どもを持つ母親同士をつないでくれ、他愛もない会話を交わす身近な子育て仲間に出会うことができました。今まで育児書に頼っていたことが、生の声で身近な育児法、育児用品、地域の情報が聞けるようになり、すっかり育児書も見なくなりました。気づくと子どもの為にと思っていた外出が、すっかり自分の為に足を運ぶようになっていたのです。子育て支援センターに行く回数が増えるにつれ、今までどこか重かった気持ちが段々軽くなり、涙も出なくなりました。
今までは、活字でよく目にする“子育て支援”って何だろうと思っていました。しかし、子どもを育てはじめ、子育て支援の大切さ、そして周囲の人たちの温かさを感じることができるようになりました。
私に今までと違う世界を見せてくれ、私を少しずつ母親として成長させてくれているYに感謝!ズボラで料理下手、いつも適当な私を不安げに、そして温かく見守って支えくれている夫に感謝!Yくん、生まれてきてくれてありがとねっ‼
この手記は十数年前のものですが、今でも同じように、誰にも言えない不安や戸惑いを抱えて子育てと向き合うご家庭はたくさんあります。我が家も、これまで出会ったさまざまな人たち、子育て支援センターや温かな地域のまなざしがあったからこそ、子どもの誕生を心から「感謝」できるに至っているのです。
傳馬淳一郎(でんまじゅんいちろう)
名寄市立大学保健福祉学部社会保育学科准教授。保育所保育士、学童保育・児童館での勤務の後、保育者養成に携わる。大学では、保育実習指導を中心に、子ども家庭支援論、家庭支援実践演習、保育者論等を担当している。子どもの育つ環境、保育者の養成とキャリア、離職等を研究テーマとしながら、保育者向けの各種研修や保育現場の公開保育、園内研修のサポートを行っている。