くらし 特集 漁業の担い手への第一歩に ふるさとの一次産業を学ぶ

村内で活躍している漁師の2名による出前授業を取材しました。

■村で活躍する漁業士
講師の伊藤大智さんと工藤幸弘さんは、北海道から漁業士として認定されており、地域漁業の担い手を育成し、漁業や漁村の活性化のために、出前授業を行うなど幅広く活動しています。

■出前授業では何を教えるの?
出前授業は、子どもたちに「地元で獲れる魚介類の美味しさを知ってもらい、漁業の魅力を伝えて関心を高めてほしい」という漁業士の想いから生まれた取り組みで、平成21年から実施されています。
小学3年生以上を対象にホタテやサケなどの管内で獲れる魚介類を題材に取り上げて、その生態や解剖、調理方法などを学びます。

1 ホタテ漁について学ぶ
稚貝から成貝のホタテに触れながら、写真や動画を用いて、漁の期間、漁獲方法、水揚げ、選別などホタテ漁について説明が行われました。動画は一人称視点となっており、子どもたちからは、漁具の八尺の巻き上げや貝の選別など、その作業の速さに驚きの声が上がりました。また、八尺にカメラを取り付けて撮影された海中の動画など、普段は見ることができない貴重な映像を見ることができました。

2 ロープワークを体験漁の際によく使用されるロープの結び方や編み方の説明が行われました。これらはとても頑丈に結ぶことができる特殊な方法で、子どもたちは結び目を中心に綱引きのように両端を引っ張り合いましたが、全くほどける様子のないロープに驚いていました。
\全力で引っ張ってもほどけない!/

3 ホタテの貝むきを体験はじめに貝のむき方とそのコツ、ホタテの体の仕組みについての説明が行われました。まだ生きている新鮮なホタテ貝に対し最初は恐る恐る触れており、今回初めて貝むきを体験した子もいましたが、子どもたちは教えてもらったむき方を実践しながら後半は慣れた様子で処理を行っていました。
むき終わったホタテは塩水につけ、お刺身で味わいました。刺身のほかには、ホタテをソテーにしたものも食べ、子どもたちからは「美味しい!」「もっと食べたかった!」といった声がありました。

■漁業士の種類と役割
○青年漁業士
道漁業の安定的発展を図るために地域活動のリーダーとして必要な知識の研修を受け、市町村や漁業協同組合などと密接に連携しながら地域活動の指導や援助を行い、これらを推進できる漁業者に対し付与される称号。

○指導漁業士
地域漁業振興や漁村生活の向上に関する助言、指導青年漁業士活動の援助などを行い、優れた漁業を経営し、漁業振興や漁村青少年の育成に指導的な役割を果たしている漁業者に対し付与される称号。

■毎年恒例のホタテ配布
猿払村漁業協同組合様のご厚意により漁業関係者を除く村内全世帯に「ホタテ配布」が行われています。配布されるホタテはその日水揚げされたもので、今年は1世帯につき約3kgが配布されました。
この取り組みは、「資源枯渇の時代から現在の豊かな海を取り戻すことができたのは、村の支援があってのこと」との考えのもと昭和51年から毎年行われています。

■漁業への想いを語る講師インタビュー
今回、出前授業にて講師を務めていただいた漁業士の伊藤大智さん、工藤幸弘さんにお話を伺いました。

●次の世代に繋いでいくために
青年漁業士 伊藤 大智さん

○仕事のやりがい
自分で獲った猿払産のホタテを食べて美味しいと言ってもらえるのがうれしいですね。村外のイベントでホタテ丼を提供した時に、「猿払産のホタテが好きで来ました!」と言ってくれたのも印象に残っています。ホタテを宣伝すれば、村のPRにも繋がるので積極的にしていきたいです。

○学び直すきっかけに
村の子どもたちは住んでいる地域に関わらず、猿払にいる時点で多少なりとも漁業に触れており、ホタテが当たり前の存在として生活していると思います。そのため、普段目にすることのないロープワークや漁の様子の動画に対するリアクションが良いですね。
また、出前授業を行うにあたって漁業協同組合に資料を確認しに行くなど、改めて村のホタテの歴史を学び直す良い機会になっています。子どもたちの楽しそうな顔を見ると、授業をやってよかったという実感がわいてきます。

○持続可能な漁業を目指して
次の世代に繋いでいくためには、いかに漁業に関心を持ってもらうかが重要であり、めまぐるしい環境の変化を受けている今が転換点だと感じています。自然を相手にする職業のため、「うまくいってほしい」と願う部分もありますが、10年20年後の未来の村の漁業を支える子どもたちのためにも、持続可能な漁業を目指していきたいです。

●知識を持ち帰って来てほしい
指導漁業士 工藤 幸弘さん

○漁師の魅力
ホタテ漁日本一に輝いたこともある村の漁師の一員になれることは、この仕事のやりがいのひとつだと思います。また、海そのものが好きということもあって、この仕事に魅力を感じています。

○興味を持ってもらう工夫
出前授業を行う際は、一方的に話すだけではなく、こちらから質問を投げかけたりクイズを出したりと、授業内容に変化を付けながら、より興味を持ってもらえるような工夫をしています。長年やっていると漁に関する知識が豊富になり、教えたいことが増えていくのですが、授業に詰め込みすぎないように調節するのが難しいですね。
調理実習では、ホタテが苦手だった子どもやサケの皮を食べたことがない子どもから、「食べてみたら美味しかった!」と聞けるのが嬉しい瞬間です。今回の授業でも「普段は生でホタテを食べないけど美味しかった」と言ってくれた子どもがいました。

○漁業を続けていくために
地球温暖化の影響などにより水温が上昇し、ホタテが生息しづらい環境になってしまうなど、ここ2、3年間で大きく環境が変わりました。現状は今ある限りの資源で時代に合わせて試行錯誤しながら進めていく必要があり、とても難しい時期だと感じています。これからも村の漁業を続けていくために、漁師を目指して進学する子どもたちには外で多くのことを学び、その知識を村に持ち帰って来てもらえればと願っています。