くらし 男女共同参画コラム

■連載168
▽仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝

待ち望んだ早春の季節が来てくれました。いつものことながら、20世紀前半のドイツの偉大な詩人ライナー・マリア・リルケが書いた詩「早春」を懐かしく思い出します。
さて、現政権は「地方創生2.0」を打ち出しました。あたかも政権の活路を地域創生に見出そうとしているようです。少なくとも筆者の目にはそのように映ります。振り返ってみるならば、2014年に始まった地方創生の狙いは、東京の一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけることでした。けれども、現状は以前と何ら変わっていないのでは。
都道府県別出生数(2024年)によれば、北海道の出生数は2万3505人であり、前年比1781人減少しています(「読売新聞」2025年2月28日付記事)。人口減少を食い止めるために、国や地方自治体は出生率向上施策に取り組んできたものの、残念ながらなかなか成果が上がりません。もちろん少子化対策は必要です。ですが、即効性は期待できませんね。
「地方創生2.0」では、若年層や女性に選ばれる地域づくりを掲げています。総務省が今年1月に公表した「2024年人口移動報告」では、転出超過は女性4044人、男性1881人でした(「北海道新聞」2025年2月28日付記事)。自然増減対策もさることながら、社会増減対策の視点に立つならば、労働力人口としての女性の流出を食い止める施策が必要不可欠です。それは官民一体で取り組まなければならないでしょう。ただし、地域の社会構造や産業構造、あるいは風土など、地域特性を踏まえる必要があると、筆者は考えます。
いくつかのデータを紹介したいと思います。経済に関する都道府県別ジェンダーギャップ指数(男女格差が無しの場合には1.000となる)を見ると、北海道は0.403で47位でした(「地域からジェンダー平等資料(2024年)」)。都道府県別男女間賃金格差を見ると、北海道は男性を100とした場合に女性は75.3です(厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」(2024年3月))。男性賃金に対して女性賃金は約4分の3であり、31位でした。都道府県別女性正規雇用割合を見ると、43.3パーセントで第42位でした(厚生労働省「令和4年就業構造基本調査」(2023年7月))。北海道では女性活躍は道半ばと言っても過言ではありません。言い換えれば、政策関与の余地があるとも言えるのではないでしょうか。
あくまでも私見ながら、とりわけ若年女性の流出を抑えるためには、地域の中小企業の雇用力を高めることが喫緊の課題でしょう。最近では、大企業における初任給の大幅引き上げが話題になっています。地域の中小企業の中には、経営的に賃金水準の引き上げが困難な企業も少なからずあるでしょう。自治体の財政支援が求められるところです。
それに加えて、いまだ根強く残っているであろう、ジェンダーバイアス(女性への偏見)やマミートラック(出産後の基幹業務からの除外)などを解消していかなければなりません。意識を変えれば行動が変わり、行動が変われば結果が変わります。女性にとって働きやすい職場環境を整備することは、地域社会における男女共同参画社会を実現することに寄与します。経営者や管理職が組織風土の改革を推進していくことが重要です。

▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。