- 発行日 :
- 自治体名 : 宮城県栗原市
- 広報紙名 : 広報くりはら 令和7年11月号
自分のようなつらい体験をさせたくない。
その思いが、栗原モデルの原動力。
栗原市独自の子育て支援の仕組み「栗原モデル」。各分野のプロがつながり、連携して相談者の悩みに寄り添います。
この中核を担う小児科専門医に、栗原モデルにかける思いを聞きました。
◆自身のつらい経験から栗原モデルを推進
栗原モデルを始めたきっかけは、市内のさまざまな人たちと会話する中で知った、「生きづらさを抱える子どもたちの存在」でした。
生きづらさといっても、その原因が発達障害など障害を原因とするものなのか、それとも、障害ではなく、成長過程の中で壁にぶつかり生まれるものなのか、その見分けは専門性を持った医師でないと難しいのが現状です。
20年ほど前、学校生活の中でうまく適応できない子どもは発達障害が疑われる傾向がありました。実際、私自身も小・中学生当時、学校の環境になじめず、とてもつらい思いをしました。しかし、実際は、学校でうまく適応ができずに不登校になった子どもでも、障害ではなく、うまく適応できなかったことからくる自信の喪失、頑張りすぎたことによる身体エネルギーの枯渇・無気力など、身体の障害を原因としないものも多くあります。その場合は、睡眠時間の確保や運動習慣の導入、人とのコミュニケーション機会を増やすこと、成功体験を積み自己肯定感を高めることなど、生活習慣を整えることで元気を取り戻し、再び学校へ登校する子どもたちも多くいます。また、この取り組みは、環境調整ともいい、発達障害の子どもにも有効です。
そのようなこともあり、市内の保育所や幼稚園、小・中学校では、私が講師となり、教員などへ生きづらさを抱えた子どもたちの対応方法を伝える講習会を開催しています。それにより、市内の学校などでは、生活習慣を整える環境調整から始めたことで、現在、市は、県内でも特に不登校の児童の割合が低い地域へと変化しています。このように医療と教育、その連携環境を提供する保健・福祉分野が同じ方向を向いて連携することで、具体的な効果が出せるようになってきました。
今後も、栗原モデルを続け、以前の私のように、小・中学校などでうまく適応できずに、つらい体験をする子どもたちを一人でも減らしていきたいです。
・みやの しゅんすけ
栗原市生まれ。幼少期を瀬峰地区で過ごし、豊かな自然環境と地域の優しい大人たちに囲まれ、のびのびと育つ。
医師を目指したのは、日本テレビの24時間テレビで見た、小児がんと戦う子どもたちの現状を知ったこと。県外の高等学校を卒業後、山梨大学医学部へ進学し、小児科医として歩みを進め、現在に至る。
◆連携する人々
宮野医師と連携し、生きづらさを抱える子どもたちに向き合う人たちがいます。その思いを聞きました。
◇栗原中央病院 公認心理師 山本 圭子 さん
宮野医師など、主治医からの依頼で、心理療法を行っています。
心理療法では、認知行動療法という「考え方」と「気持ち」、「行動」のつながりに注目し、子どもたちがより前向きに過ごせるようサポートしていきます。また、人とのコミュニケーションの取り方や感情の伝え方、アンガーマネージメントと言われる怒りの感情の対処方法などのトレーニングも行っています。
不登校になったり、学校を苦手に感じている子どもたちは、コミュニケーションが苦手だったり、人前で過度に緊張や不安になったり、さらには集団行動が苦手など、対人関係で困ることがあります。そのため、それぞれの子どもたちの特性や、困っている気持ちに合わせた心理療法を行うことで、人とのコミュニケーションの課題を克服しやすくなります。これは、子どもたちが社会で自分らしく、自分の力で進んでいく力を養うことにつながります。
子どもたち一人一人の困った様子に大人が目を向け、早めにその状況に気付いてあげられることが大切です。
◇ルアービルダー 幡野 幸基 さん(築館宮野上町)
釣りが好きで、魚を釣るルアーや道具を作り販売するルアービルダーをしています。
宮野医師から釣り教室開催の打診を受け、今回、生きづらさを抱える子どもたちとその家族に向け、釣り教室を2日間にわたり開催しました。
1日目は子どもたちが自ら使う釣り竿の制作、2日目は制作した釣り竿を使い、栗駒地区耕英の釣り堀で、イワナ釣りをしました。栗駒地区は、イワナ養殖の発祥地と言われ、釣り堀のイワナは栗駒山の清流で育ち、生臭さもありません。このように市内には全国的に見てもすばらしい自然と釣り環境があり、この環境と、自分のノウハウを生かして役立つことができ、とてもうれしいです。また、一人で何匹もイワナを釣る子どもたちの表情に、開催して本当に良かったと思いました。これからも成功体験を重ねる機会を作るなど、子どもたちの役に立てたら、うれしいです。
子どもたちの「困った」に早く気付くことが大切。
■進め 栗原ワンチーム
医療や教育、保健・福祉の各分野の専門家が連携した栗原モデル。この中核を担う宮野医師は、診察室で数十分診察するだけでは、子どもたちが抱える生きづらさの本質的な解決は難しいと言います。それは、宮野医師自身の経験に裏打ちされたものでもあり、栗原モデルを進める原動力でもあります。
そして今、宮野医師は、市の行政サービスとしての栗原モデルの枠を越え、地域の大人たちの協力を得ながら、生きづらさを抱える子どもたちの環境調整に乗り出しています。釣り教室もその1つです。また、月1回、市内で開催されるごみ拾いイベントへの参加や主催するデイキャンプもこの環境調整を意識したものです。
宮野医師は言います。「イベントの趣旨に賛同し、協力してくれる地域の大人たちは、色々な個性を持っています。大人たちだって、壁にぶつかり、四苦八苦して生きている。子どもたちには、そのような大人たちの姿を見て、今の自分を肯定し、色々な個性があっていいと感じてほしい」と。
今月の特集にあたり、4カ月間、栗原モデルと宮野医師の取り組みを取材しました。
そして、そこにはいつも、子どもたちの輝くような笑顔と充実した表情がありました。また、何年も引き込もっていた青年が、外で働き始めるなど、変化も目の当たりにしました。
市の行政サービスとしての栗原モデル。そして、そこに宮野医師の思いと、地域の大人たちの協力がワンチームとして続くとき、その力は計り知れないものになります。
また、その先には、きっと、生きづらさを抱える子どもたちの笑顔と充実した表情が、これからもあり続けるに違いありません。
進め、栗原ワンチーム。子どもたちと栗原の未来のために。宮野医師と栗原ワンチームの取り組みは、今日も続く。
