くらし 【特集】守人(2)

■里山の守人(もりびと)たち 猟友会の目的と役割・現状
○身近に迫る野生動物 私たちの安全は誰が守る?
特に今年は、野生動物による農作物被害や自衛隊の出動要請に至るほどの全国的な人的被害に恐怖を感じた方も多いのではないでしょうか。クマをはじめとする鳥獣被害が増えている背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。例えば、気候の変動や山林の餌不足により、野生動物が餌を求めて人里へ下りやすくなっており、さらに人口減少や担い手不足により里山の管理が行き届かず、藪(やぶ)が広がり生活圏との境界(きょうかい)が曖昧(あいまい)になっていることも要因です。特に河川沿いの藪を伝ってクマが移動し、住宅街やその近くの道路に出没する事例が多く見られます。
こうした緊迫(きんぱく)した状況から地域の安全を守るため、人知れず最前線で活動しているのが、「猟友会(りょうゆうかい)」です。しかし、その活動の認知度は決して高くなく、理解不足による誤解や偏見、そして多くの課題に直面しています。これらの課題を克服するためには、私たちが猟友会に対する正しい知識と理解を深め、連携を強化し、野生動物との関わり方を考える姿勢が求められています。被害を減らす力は、町民一人ひとりの手の中にあります。安心して暮らせる里山を残すために今、私たちに何ができるのでしょうか。

○厳格な法制度と資格に基(もと)づく猟友会の役割
猟友会は、狩猟者を会員とする団体で、狩猟の安全啓発や、新人育成、団体保険への加入手続きなどを行いつつ、市町村などが行う鳥獣被害対策にも協力しています。金山町でも「有害鳥獣対策実施隊(ゆうがいちょうじゅうたいさくじっしたい)」として追い払い・捕獲・見回り等を行っています。
狩猟免許を受けるには、猟法の種類に応じた区分(銃猟、わな猟など)に応じて、都道府県知事が実施する狩猟免許試験(知識・適正・技能)に合格する必要があります。このほか銃猟を行うためには、猟銃の所持許可を得る必要があり、狩猟免許とは別に、銃砲所持には、警察による身辺調査や医師の診断書、講習受講に加え、学科や実技、適性の各試験をクリアし、所轄公安委員会(しょかつこうあんいいんかい)の許可を得る必要があります。更新時は定期講習と技能・安全の再確認が義務づけられ、違反や不適性があれば許可は取り消されます。
「狩猟」と「有害鳥獣駆除」は、野生動物を捕獲するという点では同じですが、その目的は大きく異なります。狩猟は、野生動物の管理、個体調整や趣味のため野生動物を捕獲することを指し、対象鳥獣や期間は法令により制限されています。日本に生息する約700種の鳥獣のうち、狩猟の対象となる鳥獣は46種です。一方「有害鳥獣捕獲」は、人的・物的被害防止・抑制のために野生鳥獣を捕獲することを指します。特に有害鳥獣捕獲には県や町などの許可を得る必要があります。
鳥獣による被害が発生した際は、まず現場調査を実施します。そのうえで被害防止のために捕獲が必要と認められる場合や、住宅付近に獣が出没した場合など、町民の生命や財産を守るために緊急に捕獲が必要とされた場合に有害鳥獣捕獲を実施します。

○クマの捕獲件数は9年前の18倍 増え続ける町内の被害状況
近年、野生動物の目撃情報が増え、野生動物による被害は身近な脅威(きょうい)へと変化しています。被害としては、田畑や果樹の食害に加え、生活面ではフン害、交通面では衝突事故が発生しており、町民の命に関わりかねない事案も報告されています。
過去との比較でも深刻さは明白で、クマの目撃件数は平成28年の8件から令和7年の63件へ約7.9倍に、捕獲頭数も2頭から36頭の18倍に増加しました。また、クマの出没する時間帯や場所は限定されず、生活圏への接近が常態化(じょうたいか)しています。金山町でも平成21年にツキノワグマによる人的被害が発生しています。また、クマに加えてイノシシによる被害も深刻化しています。特に谷口地区や長野地区では、畑の作物が食い荒らされたり、耕地(こうち)が掘り返される被害が頻発(ひんぱつ)しています。カカシや鳥獣除けテープ、爆竹などによる個別の対策を講(こう)じても、学習や慣れによって効果が薄れ、根本的な抑止には限界があります。
鳥獣による被害や目撃情報は、その年の気候や餌資源の豊凶(ほうきょう)、草刈りや作付けなど人の活動状況によってばらつきはありますが、数年前と比べ、右肩上がりに増えているのです。

○安全は偶然では生まれない 人知れず町を守る金山猟友会
金山猟友会には現在18名が加入し、限られた人数の中で金山町の安全を守るため精力的に活動を行っています。日常的な見回りやクマ出没時の初動対応に加え、有害鳥獣の捕獲や追い払い、罠の設置などに取り組んでいます。なかでも罠の設置や確認は負担の大きい業務です。町民の出勤や通学前に安全を確保できるよう、夜明け前から活動を開始し、毎日町内を巡回しながら多い日は数十基以上の罠を町内に設置します。1基の設置にはおよそ30分を要し、町内全域での設置や点検を終えるまでに半日近くかかる日もあります。また、クマの目撃情報が入った場合は、天候や時間帯に関わらず、警察や消防、役場などと連携して最前線でパトロールを実施します。
会員は住民と自己の安全を最優先に現場に入りますが、発砲は厳格に制限され、許可や安全条件が整わない限り住宅近接地などでは銃を使用できません。結果として、至近距離での接触リスクや河川沿いでの夜間対応など、危険と隣り合わせで活動を行っています。全国的にも猟友会会員の事故や負傷は課題となっており、金山町でも「命の危険を感じた瞬間があった」と語る会員は少なくありません。こうした危険と隣合わせの過酷な現場で、人知れず町の安全なくらしを守っているのが金山猟友会なのです。